不服従と抵抗の哲学。マハトマ・ガンディーとキング牧師に学ぶ!【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第19回
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第19回
今の世の中、誰もかれもが人の言うことを聞きすぎていないか。もちろん反発するには勇気がいる。しかし、人生には反発しなければいけない局面もある。古今東西の賢者は戦い続けてきた。その「抵抗の思想」とは何か。作家・適菜収氏が新しい抵抗の道を探った。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。

◾️絶対的権力は絶対に腐敗する
私は根からの平和主義者なので、マルコムXよりマーティン・ルーサー・キング・ジュニアに共感する。マハトマ・ガンディーの「非暴力・不服従の原則」もいい。ガンディーは「非暴力運動において一番重要なことは、自己の内の臆病や不安を乗り越えることである」と言った。われわれの敵は臆病と不安である。しかし、非暴力も行き過ぎると暴力を招く。キング牧師は白人男性に、ガンディーは「ムスリムに対して譲歩し過ぎる」としてヒンドゥー原理主義団体の男に殺された。
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だから、不服従を貫くとしても、あまり気合を入れずに「不服従気味」「ちょっぴり不服従」「プチ不服従」くらいでいい。ガンディーの菜食主義もいいが、完全な菜食ではなく「野菜多め」くらいにしておく。
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先日、野菜が食べたくなったので、某所でサラダランチを注文した。目の前にボトルに入った水と小さなアルミのカップがあったので、そこに水を注いで飲んでいると、女性店員が近づいてきて、テーブルの奥に置いてあるグラスを指さし、「こちらをお使いください」と言った。私が「じゃあこのアルミのカップは何?」と聞いたら、気まずそうな顔で「会計伝票を入れるところです」と。私は店員の指示に従い、グラスに水を注ぎ飲んだ。「紛らわしいわ!」と手をあげることもない。人を許し、あくまで非暴力を貫くのだ。
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詩人のヘンリー・デイヴィッド・ソローは、「不正な国家に服従すること自体が不正である」と言った。
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歴史家のジョン・アクトンは「権力は腐敗する傾向がある。絶対的権力は絶対に腐敗する」と言った。保守主義の本質は、あらゆる権力を警戒するところにある。なぜなら人間理性を信仰していないからだ。
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不服従は小さなことから始めるのがいい。なにかを頼まれたら、やんわりと断る。カウンターで横に座った人が「タバコを吸ってもいいですか」と聞いてきたら「嫌です」と断る。家族から買い物を頼まれても安易には従わない。上司から仕事を頼まれても無理ならはっきり断る。「仕事なんだからやれ」と言われても「できません」と断る。「じゃあ、クビにするぞ」と言われたら「それも嫌」と断る。その積み重ねが「あいつは全然言うことをきかない」という評価につながっていく。
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「あれも嫌、これも嫌」という幼児的万能感に満ち溢れ、不服従を貫いた男と言えば、石原慎太郎を思い出す。自分より強そうなものは全部嫌い。アメリカが嫌い、ロシアが嫌い、中国が嫌い、皇室が嫌い、官僚が嫌い。皆、大嫌い。童話『いやいやえん』の世界そのものである。これからの時代は石原の駄々っ子ぶりに学んでみるのもいい。
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