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「150万の大仕事」にまんまとつられ…素人デザイナー地獄の10日間の始まり【斉藤啓】

どーしたって装丁GUY 第4回


時は1988年、バブル景気に浮つく東京。大学を中退してHPゲージが0になったぼくは友人の誘いで東電広告の営業部で宣伝広報のお手伝いをすることに。そんな時、突然ギャラ150万円の大仕事が舞い込んできて…地獄の10日間が始まった。シリーズ「どーしたって装丁GUY」第4回。


■ぼく絶滅まであと10日!

 

 1988年、渋谷区神泉。

 クラシカルなプールバーの窓際の席に1人腰掛け飲み物で喉をうるおし一服。Gショックのアナログ針は深夜2時を指す。窓からは旧山手通りを挟んでバイト先の東電広告のビルが見える。蛍光灯が煌々と灯るあの会議室にそろそろ戻って仕事を続けなければなりません。

 その仕事とは、いよいよ開催が迫ってきた東京電力の秋のイベント。

 皇居にほど近い日比谷公園で行われるそのイベントは、東電の他にも多くの企業のブースが展開されることが決まっており、食べ物やお菓子の屋台や子供向けのキャラクターショーも併催、秋の土日にかなりの人手が予想されます。

 東京電力のブースは10人以上を収容できる大きなもので、内部に高さ2mほどの大型パネルを11枚並べることになっています。テーマは「東京電力の尾瀬の環境保護活動」。東電が企業メセナ活動として長年力を注いでいる環境保護活動を、広く一般へ衆知するのがイベント出展の目的!
 
「なんとなくそこにいたから」というぼんやりした理由でイベントブースの全デザインを任されたぼく。もちろん19歳の自分にとっては150万円とゆう破格のギャラに全力で釣られたってのは言うまでもありません。

 企画に正式なゴーサインが出たのは遅れに遅れて締切(入稿)2週間前。そこからデザイン作業に充てられた時間はきっかり10日間。やるべき仕事をあらためてまとめると以下の通り。

  • イベントブースの空間デザイン
  • ブース内に設置される大型文字パネル×11種類のグラフィックデザイン
     
    「さぁ、困った」。東電広告社内の作業部屋(小さな空き会議室を10日間限定で貸し与えられた)に戻り、無数の付箋がびっしり貼られた企画書と原稿の厚い束を会議机にどさっと置き、しばし途方に暮れる。

 そうです、ぼくはムサビの視覚伝達デザイン科に在籍していたとはいえ、ほぼほぼ授業を受けぬまま早々に中退しているため(前コラム参照)、デザインの「デ」の字も知らないド素人。いったいナニから手をつけていいのやら皆目見当もつかない。

 まああと10日もあるし、なんとかなる…よね?と自分に言い聞かせ、とりあえず紙を広げてペンを握る。

 まずは一番簡単そうなブースの空間デザインに取り掛かります。環境保護やらエコロジーやら地球に優しいやら、イベントのコンセプトワードを、ブースやその周りに反映させながら描き描きタイム。すでにここでのバイトで山のようにイメージイラストを描きまくってきたので、意外にかんたんかも。それが冒頭の↑イラスト。

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斉藤 啓

さいとう けい

装丁家 グラフィックデザイナー アートディレクター

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科中退。有限会社ブッダプロダクションズ代表。メインのお仕事は書籍の装丁ですが、ファッションなどの広告や、企業団体のディレクションなどもやってます。たまにBDAP名義でアーティストも。ヒマな時は山登りかチャリ乗ってます。HIPHOPと麻婆豆腐が好き。ニューヨークADC Distinctive Merit。ニューヨークTDC、ニューヨーク・フェスティバル、ショーモン国際ポスターフェスティバル(仏)ほか国内外のデザインコンペティションで受賞多数。

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