資本の罠に騙されるな! 「純情商店街」が隠しているもの【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第18回
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第18回
行き場を失った老人が集まる商店街。それを食い物にする悪徳商人たち。世の中には、本当の意味で純情な商店街は存在するのだろうか? 長年、商店街で暮らしてきた作家・適菜収氏が、「純情商店街」とは一線を画す「厭世的商店街」についての考察を行った。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。

■地獄への一本道
ねじめ正一に『高円寺純情商店街』という小説がある。読んだことはないが、きっと高円寺にある純情な商店街についての話なのだろう。しかし、世の中に純情な商店街は存在するのか? 私の知る商店街の多くは、「不純」であり、魑魅魍魎がしのぎを削る水滸伝のような世界である。
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テレビ番組は「人情のぬくもりがこの商店街にはある」みたいな紹介の仕方をする。以前私は「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる商店街に住んでいた。そこでは毎日のようにどこかのテレビ番組のスタッフがカメラマンを連れ、歩いている老人にインタビューしていた。特に4がつく日(4日、14日、24日)は屋台が出て混雑する。自宅に居場所がない老人が流れてくるのだろう。特になにをするわけでもなく、商店街を埋め尽くしている。当然それを狙った悪党は増えていく。
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定番の手口だが、トラックの荷台に大きな桃を並べる。3個で500円と段ボールに書いてあるので、客が買おうとすると、別の場所から固くて小さい桃を出す。客が「この大きな桃をください」と言うと、「こちらは3000円になります」と押し付ける。
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短期で貸し出されるイベントスペースでは、健康器具などを売りつける催眠商法が行われている。「私はこれでガンが治った」という女性が写った看板を出している漢方薬屋もあった。私は薬事法違反で捕まるのではないかと思っていたが、案の定、逮捕された。
朝から閉店まで「1時間限定のタイムセール」をやっているバッタ屋もある。スーパーマーケットで売っているベタベタの鰻よりまずい鰻屋も、こうした場所ではつぶれることはない。不道徳な果物屋もある。夏には店頭でキュウリ1本に味噌をつけて200円で売っている。腐っているように見える果物は「見切り品」と称して店頭に並べる。こうした連中は、悪徳であるがゆえに栄えていく。
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商店街のはずれに客の入っていない小さなラーメン屋がある。醤油ラーメンを注文したが20分経っても出てこない。ガタンと大きな音がしたので、やっと出てくるのかと思ったら、全自動でラーメンを茹でる巨大な機械が作動をはじめただけだった。なぜ、そんな機械が必要なのか? カウンターにはCDが積まれており、「ご自由に待ち帰りください」とある。おそらくどこかの会社の社長が趣味で演歌のCDをつくり、節税対策で愛人にラーメン屋をやらせているのだろう。そう考えないとつじつまが合わない。やっとラーメンが出てきたが、くそまずかった。
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原宿竹下通りから「おばあちゃんの原宿」までは人生という一本道でつながっている。メディアに誘導され、悪人に騙され、搾取され、干からびて死んでいく。
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