「ファミレスのボックス席」と「無邪気な彼女」【神野藍】連載「揺蕩と偏愛」#16
神野藍 連載「揺蕩と偏愛」#16

◾️しんとした空気が漂う 22時30分
器についたアイスクリームが完全に液体になった頃、「そろそろ帰るかー」と彼女が切り出した。しばらく放っておいたスマホの画面には、22:30と表示されていた。外に出ると数時間前よりもしんとした空気が漂っている。
「結局何も作業してないけど、まあいっか」と悪戯な表情で、バイクのヘルメットを差し出してくる。彼女が運転するバイクの後ろに乗って、少し肌寒い空気が服の間をすり抜けていく。彼女の腰をぎゅっと掴みながら、後ろから道案内をしていく。「なんでバイクに乗り始めた私より、東京の道分かるんだよー」なんて軽口を叩く彼女に、私も「道覚えるの得意だから」と得意げに返答をした。
冷たい夜風の中に2人の笑い声が溶けていく。
出発するよりも身体が軽くなったのを感じていた。
文:神野藍
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✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに

 
			     
								 
								 
								
 
                                   
                                    

 
                                             
                                             
                                             
                                             
                                             
                                             
                                             
                                            