大空へのあこがれ。それは地上の生きづらさの裏返しである!【適菜収】
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第15回
リンドバーグ、ライト兄弟……。大空を羽ばたいた人たちがいた。われわれはなぜ空にあこがれるのか。時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏が空と鳥に関する考察を行った。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。

■魔法をかけられた少年
「この空を飛べたら」という中島みゆきの曲がある。「ああ人は昔々鳥だったのかもしれないね」という歌詞があるが、人の祖先は猿であり、鳥ではない。鳥の祖先は二足歩行の肉食恐竜である。
「翼をください」や「ひこうき雲」のように、空を恋しがる曲は多い。それだけ地上は厳しいのだと思う。
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たまに空を飛ぶ夢を見る。夢の中で体を浮かせようとすると、数メートルから大気圏ぎりぎりまで体が浮かび、さらに前方に進むこともできる。夢の中では、浮かぶ際、電線に引っ掛からないように注意したり、あまり高くまで上がると、気温が下がるし空気が薄くなるからよくないと考えたりもする。荒唐無稽な夢なのに、変に論理的である。
こんな物理法則に反することができるのだから、世界は大きく揺らぐことになる。だから、やはりおかしいと思う。そのうち「これは夢を見ている可能性が高い」と気づく。
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やがて目が覚め「やっぱり夢か」と思い、ベッドから降りて、もう一度体が浮くか試してみると、なんと浮いた。夢ではなかった! 信じられないが目の前で発生している事実ほど確かな証拠はない。社会を汚染する「目覚めてしまった」系の人々も同じようなものだろう。「目が覚めた」と言いながら、一生夢の中で暮らすのである。
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合理的・理性的に考えようが、前提が間違っていればすべて間違う。
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私が幼稚園の頃、『ニルスのふしぎな旅』というアニメ番組があった。内容は覚えていないが、人が鳥に乗って旅をするのだから、強い印象が残った。本連載「厭世的生き方のすすめ!」のバナーのイラストも、ニルスからインスピレーションを受けて、私が描いたものである。
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ネットで調べてみると、「動物たちをいじめてばかりのわんぱく少年ニルスは妖精を怒らせ、魔法でハムスターのキャロットとともに小さくされてしまった。と同時に動物たちの言葉がわかるようになる。飛べないガチョウのモルテンと一緒に、ガンの群れに同行して旅するなかで、彼らと友情を深め、わがままだったニルスは心優しい少年へと成長していく。スウェーデンの児童文学が原作」(NHKアーカイブス)とのこと。
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私も妖精に魔法をかけられ小さくなりたい。
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大江健三郎『個人的な体験』の主人公は鳥(バード)というあだ名を持つ予備校講師だが、あれはチャーリー・パーカーへのオマージュである(ような気がする)。
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小林秀雄は福田恆存を「痩せた、鳥みたいな人」「良心を持った鳥のような感じだ」とほめた。大江も福田も鳥に似ている。渡辺喜美もインコみたいな顔をしている。鳥人間コンテストは顔で選ぶべきだ。
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昔、昼のワイドショーを毎日観るおばあさんの言葉に痺れた。「小柳ルミ子ちゃんね、あの子、若いスズメを飼っているのよ」。それを言うなら「若いツバメ」である。
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