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「解く」ではなく「作る」【森博嗣】新連載「道草の道標」第8回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第8回

 

【自分の問題を作る方法】

 

 問題を作るにはどうしたら良いのか。これはいろいろな方法がある。身近な問題の場合は、なんらかの不具合が目前にあって、それを解消することが課題だ。この場合、まずは「観察」すること。普段は見ない方向から、時間をかけて見る。隠れているところがあるかもしれない。また、条件を変えて変化を見る。現在の状態だけではなく、過去の様子についても調べてみる。観察するだけでは、まだ「自分の問題」とはいえない。しかし、そこまでじっくり見ている人は、世界であなただけかもしれない。

 次に、「分割」である。分割することで、問題がどこにあるのか、問題の本質は何か、を探す。この過程で、だんだん「自分の問題」として認識できるようになる。不具合があれば、それはどこにあるのか。逆に、どこまではOKなのか。問題がない部分を切り離し、どんどん範囲を狭めていく。こうすることで範囲が絞られて、考えやすい状態で残る。この「分割」は重要な考え方で、日頃からものごとを分割する癖をつける。どこまでは大丈夫そうだが、どこらへんが怪しいかを見極める目を養う。

 分割とはまた別の操作で、「分解」がある。問題を分解するのである。多くの問題は、複雑な条件や構造を持っていて、だいたいはその仕組みの大半が隠されている。なんらかのカバーによって飾られているのだ。したがって、そのカバーを外し、構造を見やすくする。複数が組み合わさっている場合には「分割」して、さらに細かく「分解」していく。分割し、分解することで、個々のものが単純になり、システムを理解しやすくなる。どこに問題があるのか、どうすれば解決するのかが見えてくる。このように、ものごとを「分解」することも、自分の問題を作る方法といえる。

 最終的に、観察し分割し分解して、自分の問題が明らかとなったら、問題にかなり焦点が合ったといえる。そしてここからは、とにかく考える。なにか、解決方法を思いついたら、そこから「仮説」を立てる。もしも、この方法が答ならば、つまりこのような原因であり、こうして解消されるはず、と理屈を考える。さらに、そこから具体的な解決手段を考案してみる。実行できるものなら良いが、ときには不可能な場合もある。それでも、近い方法で、答に近づくことができるかもしれない。

 その手段によって期待どおりの結果が出なかったときは、仮説が間違ってたことが証明される。これも一つの成果である。別の仮説、別の仕組み、別の因果関係をまた考えることになる。こうして、しだいに答に近づくのだ。

 結局、自分の問題を作ることが最も大事であり、問題さえ正確に把握されたら、あとは解決するだけになる。つまりは、計算するだけ、考えるだけ、試すだけ、となる。多くの場合、前進できず、生産的な結果が出せない理由は、問題が不明確だからだ。ぼんやりとした問題ではなく、自分の問題として明確に頭の中で焦点が合っている状況へ持っていくことが重要である。

 もちろん、問題の答を見つけたといっても、現実に解決するかどうかはわからない。たとえば、解決には資金や時間、あるいは大勢の協力が必要だ、という場合がある。すると、そこにまた新たな問題が生まれる。資金、時間、協力をどのようにして得るのか、もし、それらが期待できないのなら、また別の解決方法を考案するしかない。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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