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戦艦三笠にZ旗が掲げられる!
「皇国ノ興廃、此ノ一戦二アリ」

日露戦争の真実 日本海海戦の戦略を読み解く 第10回

 このままでは煙突の中に海水が入ってボイラーがやられる。秋山は連繋機雷と水雷艇は使えないと判断。秋山の具申を受け入れた東郷は午前10時、水雷艇隊に対し対馬で待機するように命じた。

 連合艦隊は7段構えの第1段にあたる奇襲攻撃ができず、いきなり主力艦隊での決戦に挑むことになった。

 連合艦隊主力より早く対馬を出撃していた第3艦隊第5、第6戦隊は午前10時、2列縦陣のバルチック艦隊の西側に並行するかたちで航行した。第2艦隊第4駆逐隊(司令・鈴木貫太郎中佐)は3000メートルほどまで肉薄した。

 朝鮮海峡の南方からは第1艦隊第3戦隊が北上し、午前10時には敵艦隊左舷のほぼ真横まで追いあげた。

 午前11時20分、バルチック艦隊のアリョールが旗艦スワロフ(クニャージ・スヴォーロフ)に向け、日本艦隊との距離を示す信号旗をあげた。それを「戦闘開始」と勘違いしたアリョールの砲兵が砲撃を始めた。艦隊の各艦は早合点して砲門を開いた。第3戦隊は慌てて離れた。最初の攻撃は10分ほどで終わった。

 連合艦隊主力は正午ごろ、対馬の東にある沖ノ島北方約10海里(約18・5キロ)の地点に達した。

 午後1時39分、「三笠」艦橋からバルチック艦隊の艦影が確認できた。味方艦艇からの報告では敵艦隊は1万メートルほど東側を航行しているはずだったが、実際には真正面に相対している。

 秋山は黄海海戦での教訓を活かし、変則的な丁字ともいうべき「イ」のかたちで攻撃する並航戦によって敵艦隊を逃さない戦法を編み出した。このままではそれが使えない。すぐに面舵を取り右回頭した。敵艦隊から見ればわざわざ進路をあけて西に去って行くように見える。移動の最中、午後1時55分、「三笠」のヤードに「Z旗」が翻った。

「皇国ノ興廃、此ノ一戦ニアリ。各員一層奮励努力セヨ」

連合艦隊の旗艦「三笠」。現在も横須賀港にその勇姿を見ることができる。

 

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松田 十刻

まつだ じゅっこく

1955年、岩手県生まれ。立教大学文学部卒業。盛岡タイムス、岩手日日新聞記者、「地方公論」編集人を経て執筆活動に入る。著書に「紫電改よ、永遠なれ」(新人物文庫)、「山口多聞」(光人社)、「撃墜王坂井三郎」(PHP文庫)など。


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