ビートルズよりAKB48の活動期間は長い。「時間が過ぎるのが早くなった」は本当か?【近田春夫×適菜収】
【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第9回
◾️人間は思想の面でもバラバラになっていく
近田:近代では負のエネルギーが作用してバラバラになっていく。その最たるものが、ヤフコメ(Yahoo! 記事のコメント欄の通称)ですよ。あれって、ものすごい数の人が、それぞれ別の視点から意見を書き込んでるじゃない? そして、その意見に関して、また違う角度からいろいろな考察が行われる。一人として、まったく同じ考えを持ってる人はいないですよ。十人十色、千差万別。
適菜:そうでしょうか? 私が見た範囲では、ヤフコメには同じようなコメントばかりだなと感じますが。
近田:あくまでも、「同じようなこと」なのよ。何かに対して、大きく分けたら肯定的な人と否定的な人がいるとして、その理由が同じじゃないんですよ。細部が異なっている。例えば、トランプ大統領に対しても斎藤兵庫県知事に対しても、意見のディテールが違う。
適菜:なるほど。
近田:昔は細かい違いは見えることがなかった。新聞にしても雑誌にしても、そこで表明される意見の数は少なかった。ある程度収斂が施されていたわけね。ところが、今や、思いついたら誰でもすぐ、ネット上に自らの意見をアップすることができる。だけど、その文章力といえば、往々にして拙く、上手く意味が伝わらないものが多い。
適菜:そうですね。
近田:だってさあ、我々みたいに文章を書くことを職業にしている者にとっても、自分の考えを正確に伝えることはなかなか難しいわけじゃん(笑)。
適菜:伝えたいことを正確に書けば反発を浴びますし。
近田:なのに、ヤフコメやXでは、真意が伝わらないままのコメントがいっぱい出てきて、それに対して、さらにきちんと理解していないコメントが寄せられる。すると、その応酬は、感情的に相手をやり込めるだけになってしまう。
適菜:話が嚙み合わないわけですね。
近田:そう。相手の人格否定一辺倒になってしまう。でも、結局、この混乱した有り様こそが、人間社会というものの偽りない真実の姿だと思うんだよね。
適菜:そうですね。言葉が通じないのが普通の社会です。
近田:コンピューター社会はその真実を知らしめたのでは。
適菜:近田さんはそれについてどう思っているのですか?
近田:肯定も否定もしないけど、個人的な感情としては、あんまりうれしくはない。でも、これはこれで不可逆的なものだと思うんですよ。もう戻ることはできないよ。
適菜:人類の歴史を振り返れば、その道のりは凸凹だった。でも、いわゆる進歩史観のようなものにたぶらかされて、「未来は明るい」という幻想を抱いてしまったわけです。でも、うっかりしていて一瞬で滅びた国なんてたくさんありますよね。日本の現状も同じです。多くの人が「なんか変だ」と気づき始めた時点で、すでに終わっていたということです。
近田:まぁ、そんなもんですよ。
構成:下井草 秀