ビートルズよりAKB48の活動期間は長い。「時間が過ぎるのが早くなった」は本当か?【近田春夫×適菜収】
【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第9回
ビートルズの活動期間が10年だったのに対し、AKB48は20年間に及ぶ。今の時代の20年と昔の20年は同質のものなのか? 20世紀末の時点で、音楽はいずれタダになると予言していたミュージシャン近田春夫氏と近代大衆社会の末期症状を描き出した『日本崩壊 百の兆候』(KKベストセラーズ)が絶賛発売中の作家適菜収氏による異色対談の後編。新連載「言葉とハサミは使いよう」第9回。

◾️人類の終末は意外と早い
適菜:変な政治家がいろいろ出てきていますが、目新しさはない。結局、第二の安倍晋三、第二の橋下徹なんです。腐り方は同じです。
近田:政治の世界は、縮小再生産の時代に入ったのかもね。
適菜:だから、政治に関しては突っ込みどころも同じようなものになるし、時評を書くのも飽きてしまいました。
近田:世の中、政治家のみならず、何もかもが小粒になってきていると思うのよ。ただ、この感覚には、時間の経過も関係あるのかなと考えていて。
適菜:どういうことですか?
近田:齢を取ると時間が過ぎるのが速くなるっていうのは、よく聞く話じゃないですか。心理学では「ジャネの法則」と呼ぶそうだけどさ。
適菜:フランスの哲学者ポール・ジャネが発案したものですね。

近田:時間に対する体感が短縮するのに応じて、物事のスケール感も縮小するのかなあ、なんて。
適菜:なるほど。
近田:俺は今74歳だけど、死が近づいてくると、一日一日が短くなる。ひょっとすると、これって、個人だけじゃなくて、人類全体に対して敷衍できる法則なんじゃないかと思うのよ。だって、自分よりずいぶん若い人間と話していても、「最近、時間が過ぎるのが速くなりましたね」って言うんだよ。ということは、人類という集団そのものが、老境を迎えているんじゃないかって。
適菜:人類の終わりが近いということですか?
近田:特に、コンピューターが発展して以来、人類は、いろいろな意味で先が見えやすくなったじゃない? 1970年の大阪万博では、みんな、薔薇色の未来を信じていた。でも、今開催されている大阪・関西万博を見ても、将来に対して手放しで楽観を抱いている印象は微塵もない。
適菜:運営も不手際ばかりだし。
近田:俺らが子どもの頃はさ、少年雑誌の新年号は、小松崎茂の描いた未来像なんかが巻頭を飾っていた。自動車が空を飛んでたりしてさ。今の万博でも、「空飛ぶクルマ」と称する乗り物が披露されているけど、あれ、単にでっかいドローンみたいなもんじゃん(笑)。かつて夢みた空飛ぶクルマとは別物だよ。

適菜:維新がやっているのは全部このパターンですよ。大風呂敷を広げて、世の中を騙す。
近田:もはや、未来に関しては否定的要素ばかりが論じられるようになってきた。みんな、人類の終末は意外と早いんじゃないかなと考えてるんだろうと思う。人類全体が、ジャネの法則を共有している。
適菜:日本はこの30年で完全に破壊されました。「日本スゴイ」なんて言ってる情弱もまだいますが、すでに多くの人が日本が取り返しのつかないところまで来ていることに気づいている。