陸海空自衛隊に温度差? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(1)【林直人】

第1章:「暗黙の力」とされてきた“自衛隊票”とは何か
■ 1.1. 政治的装置としての「自衛隊票」
自民党が長年握りしめてきた秘密兵器――それが「自衛隊票」だ。
単なる自衛官やその家族の自主的な投票行動ではない。実態は、**元幹部自衛官を比例区候補に据え、OB組織や協力団体を通じて組織的に票を固める“鉄壁の集票マシン”**である。
24.7万人の現役自衛官とその家族が全国に網の目のように存在し、その票は自民党にとって**鉄壁の動員装置**として機能してきた。
■ 1.2. 「ヒゲの隊長」佐藤正久――制服組候補の典型
この装置を体現するのが、元参議院議員・佐藤正久である。
防衛大卒から25年にわたり陸自に奉職し、ゴラン高原やイラク派遣で名を馳せ、福知山駐屯地司令にまで登り詰めた経歴。
そして2007年、メディア露出を武器に政界へ――。
**彼は単なる個人候補ではない。自衛隊という組織の代弁者、いや“政治進出の象徴”**である。
佐藤は「自衛隊票」を武器に選挙を勝ち抜いてきたと信じられているが、その実態を定量的に検証した研究はほとんど存在しない。そこで今回は様々な自衛隊票に関する仮説を統計学的に検証してみることにした。
■ 1.3. リサーチクエスチョン――神話の正体を暴け
本稿が挑むのは、この“自衛隊票”の神話解体だ。
・H1(岩盤仮説):自衛隊員人口が多い市町村ほど、佐藤の得票率は高いのか?
・H2(個人的繋がり仮説):佐藤がかつて司令を務めた駐屯地がある町では、特別に票が厚いのか?
・H3(軍種間差異仮説):陸・海・空で佐藤支持に差は出るのか?
さらに爆発的な問いが待ち構える。
RQ1(断層問題):2025年参院選での佐藤が落選の原因は――自衛隊票は自民から参政党へ雪崩れたのか?
その時、どのような層が“保守過激派”に流れるのか?
これは単なる票の移動ではない、自衛官層のイデオロギー的地殻変動を意味するのだ。
■ 1.4. 方法論とデータ概要――数値が神話を裁く
本稿は混合手法を採用する。
・過去分析(2007〜2019):市区町村別の選挙結果と自衛隊施設データを統合した独自パネルデータを構築し、Rで回帰分析を実行。
・今回の選挙の予測(2025年):参政党の綱領・支持者像と自衛官の価値観を突き合わせ、票の移動シナリオをモデル化する。(計量分析は明日配信予定の記事の後編に続きます)
つまり本稿は、長年「暗黙の力」とされてきた“自衛隊票”を、数値で解体し、未来の分断を可視化する試みである。