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「大丈夫」のリアルさはどれくらい?【森博嗣】新連載「道草の道標」第5回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第5回

 

【質問なのか相談なのか】

 

 さて、ご質問にお答えしましょう。「森先生、こんにちは。森先生は突然の不運、他人からの悪意や不誠実に対して、淡々と流してしまう印象があります。どうしたらそんな心の余裕が保てるのでしょうか。私はすぐに人間嫌いになってしまいます」

 これは、簡単にいえば、期待していないからです。幸運を期待し、他者の言動や行為に期待するから、その反動で動揺してしまうのだと思います。日頃から期待せず、悪い想像ばかりしていれば、そうなっても、思ったとおりだ、となるだけです。

 次は、このご質問。「老いをテーマにしてお話を伺いたいです。お年を召して考えが変わったことなどございますか?(未来より過去に目がいくようになった、体調のことなど)」

 歳を取るようになったのは、生まれてすぐのことで、以来ずっと同じ速度で歳を取ってきました。たぶん、皆さんも同じだと思います。そして、その過程で考えが変わることがいつもありました。若いときほど、頻繁に変わりました。歳を取るほど、変化の速度は遅くなるように観察されますが、これは経験と知識の積み重ねによるものでしょう。最近になって、以前よりは人(主に家族ですが)のことを気にするようになりました。若いときには自分が抱えている問題で手一杯だったので、そんな余裕がなかったと思います。つまり、いろいろ切り捨て、沢山のことを諦めたから、余裕が生まれたのだといえます。

 では、もう一つ。「生成AIの進化や人類の不老化、少子化など、W・WWシリーズで描かれた世界が現実になりつつあると感じます。執筆当時、先生はこの未来を予測されていましたか? 今後の世界がどうなるか、ご意見を伺いたいです」

 どうなんでしょう。別に予測したというほどのことではなく、単に小説を書くために、ちょっと想像しただけのことです。誰でも予測するようなレベルだと思います。また、僕の意見がどうであれ、未来に影響することはないはずです。

 人生相談みたいな質問が多いようだけれど、明らかに僕は回答者として適任ではない。第一に、人生を上手に生きてきたとは思えないし、そもそもどういう状態が上手に生きたといえるのかもわからない。いかなる質問に対しても、人それぞれでしょう、と答えてしまいそうで心配している。あと、「心構え」のアドバイスを求められることも多々あるが、僕にはその「心構え」そのものが認識できない。つまり、心構えがあると、それがどうなんだ、心構えがなければ、何がいけないのか、とあまりにも望洋として、単に言葉だけの呪文に近い印象しか受けとめられない。

 しかし、他者がどう考えているのか、どのように理解をしているのか、といったことは、結局は言葉でしか伝えられないのだから、しかたなく言葉を尽くし、言葉に頼ることになるのかな、と諦める。行動で示すことができる範囲はごく狭いので、近しい人でなければ伝える手段がほかにない。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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