トヨタ帝国の崩壊序曲 ーータイ自動車市場でBYDが仕掛ける「電撃戦」【林直人】
第4章
トヨタを直撃するBYDショック――数字が示した衝撃の侵食効果
4-1 主要な発見:BYDの販売台数がトヨタを削る
遂に突きつけられた冷酷な数字。分析の中心的な結果は、log(BYD_Sales) の係数が -0.081――。これは単なる統計ではない。**「BYDが10%伸びれば、トヨタは約0.81%沈む」**という残酷な事実を意味する。しかもこの係数は、統計的に10%水準で有意(p値 = 0.062)。つまり、偶然では片づけられない“有意な競争インパクト”が、すでに現実のものとなっているのだ。
サンプルサイズの制約から統計的確信度は若干下がった。それでもなお、この数字はBYDが単なるEV市場の新規開拓者ではなく、**「トヨタの牙城を直接侵食する破壊者」**であることを強烈に裏付ける。
4-2 競合他社の影響:同床異夢のトヨタといすゞ
さらに驚きなのは、log(Isuzu_Sales) が正で有意だったことだ。つまり、トヨタといすゞは「敵対」ではなく、**市場景気の波に乗って同じ方向に動く“共犯関係”**にある可能性を示している。
商用車分野を軸に、両者は互いに喰い合うよりも“運命共同体”のように振る舞っているのだ。
4-3 マクロ経済・政策の影響:金利が引き金を引く
分析はさらに、政策金利の冷徹な刃を暴いた。Policy_Rateの係数は負で有意。すなわち金利上昇は自動車ローンのコストを押し上げ、トヨタの販売を直撃している。
これは「金利上昇=トヨタの失速」という単純にして致命的な因果を突きつける。
一方でGDP成長率やCPIは期待された方向に動いたが、有意ではなかった。つまり、トヨタを苦しめるのは景気やインフレではなく、BYDという新興勢力と金融環境の冷酷な現実なのだ。
■結論:トヨタ帝国の黄昏が始まった
再分析の結論は衝撃的だ。タイ市場におけるBYDの台頭は、市場全体の低迷やマクロ経済の影響を超え、**トヨタそのものを直接的に侵食する「毒牙」**であることを、統計的に示唆している。
これは単なる一国の現象にとどまらない。トヨタ神話の崩壊は、アジア全体、いや世界市場で再現されるかもしれないのだ。
――BYDの伸長は、トヨタにとって“新市場の拡大”ではなく“自らの衰退”を意味していた。数字は嘘をつかない。そして今、その数字が告げているのは、トヨタ帝国の黄昏の始まりである。