『アニメージュ』とアニメ誌戦国時代【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」19冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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『アニメージュ』とアニメ誌戦国時代【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」19冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」19冊目

 

 これらのアニメ誌が雨後の筍のように一気に創刊されたのは、ヤマトブームだけが理由ではない。この時期、アニメ史に残る名作が多数世に出ている。1978年『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『未来少年コナン』『宝島』、1979年『機動戦士ガンダム』『赤毛のアン』『ベルサイユのばら』、劇場版『銀河鉄道999』『エースをねらえ!』『ルパン三世 カリオストロの城』、1980年『伝説巨神イデオン』『トム・ソーヤーの冒険』など。そうしたアニメファンを熱くさせる作品があったからこそ、アニメ誌も盛り上がった。

 なかでもやはり、『機動戦士ガンダム』の存在は大きい。いち早く取り上げたのは『OUT』で、1979年5月号の春の新番組情報の中で期待作としてトップに扱っている。続く6月号では表紙に登場。ただし、放映開始から1カ月も経たない時期の発売であり、内容的には宣材資料が少し載っている程度だった。

  同誌が本格的にガンダム特集を組むのは7910月号。第22話までのストーリー紹介とSF的設定の考察、「脇役グラフィティ」に「お楽しみは土曜の午後5時半からだ?!」(和田誠の『お楽しみはこれからだ』の体裁でガンダムの名セリフを紹介)といった企画、さらには富野喜幸(現・由悠季)監督の5ページにわたるインタビュー(聞き手はのちに『ドラゴンクエスト』で一躍有名になる堀井雄二)が収録されている。

 『アニメージュ』は79年9月号で特集を組んだ。表紙がアニメのセル画ではなく安彦良和のイラストレーションというのは作家主義宣言でもあった。特集自体のボリュームは10ページと物足りないが、メジャー出版社の雑誌で特集された意味は大きい。この号は17万部、同じく安彦良和によるシャアの原画が表紙の12月号は185000部を売り上げた。

 しかし、当時のガンダムブームの先頭に立っていたのは『アニメック』だ。79年7月発売の6号で「機動戦士ガンダムのすべて」と題した特集を組む。第1話~6話の詳細なストーリー解説、設定資料と富野監督のインタビューを掲載。その時点では最も充実した特集だった。4万部という数字は『アニメージュ』に比べれば少ないが、この一冊がガンダムにハマりつつあったアニメマニアを熱狂させたのだ。

 

『アニメック』(ラ・ポート)6号。記事画像はp32-33より

 

 同誌はその後も7号で小特集、8号で大特集パートⅡを組み、さらに9号で中特集、10号で「さらば機動戦士ガンダム特集」、11号で「ガンダム研究パート」、12号で「ガンダム研究PART2」と、怒濤のガンダム推しを展開する。カラー場面集、設定資料、ストーリーの紹介はもちろん、キャラクターやメカ、用語を解説した事典のほか、SF考証について図解入りで詳細に解説したり、ホワイトベースの航路図を作ったり、毎号のように富野監督にしつこいくらい話を聞いたりというこだわりの誌面は、熱気に満ちていた。

 ……と、他人事のように書いてきたが、かく言う私もヤマトやガンダムにハマったアニメマニアの一人であり、『アニメージュ』『アニメック』『OUT』を毎号のように買っていた。3誌にはそれぞれ特色があり、『アニメージュ』は大手版元らしく幅広い情報を扱う総合誌で、『アニメック』はマニアックなファンジンのよう。『OUT』はパロディや読者投稿にも大きく誌面を割いており、ラジオの深夜放送的ノリがあった(もっとも、この時代の雑誌の常として、どの雑誌も投稿欄は活況ではあった)。

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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