アベガーに殺された安倍晋三と、ジャニーガーに潰されたジャニーズ。その本質は歪んだ世直しごっこである【宝泉薫】「令和の怪談」(7)
「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(7)【宝泉薫】
なお、アベガーの構成層は、ジャニー喜多川やジャニーズ事務所を憎む人たち、いわばジャニーガーともかなり共通していて、当然ながら、姿勢も似ている。24年10月にNHKが放送したドキュメント番組『ジャニー喜多川 “アイドル帝国” の実像』でも、不公正な姿勢が目立った。
局のサイトでは、こんな番組紹介がされている。
「ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏。日本エンタメ界のカリスマでありながら、長年に渡り、少年たちへの性加害を続けてきた。なぜ誰も彼を止められなかったのかーー。アメリカ日系人社会での知られざる来歴や、ジャニーズ草創期を知る人物の貴重な証言から、早い時期からのジャニー氏の性加害、そして姉・メリー氏がそれを “隠蔽” してきた実態が浮かび上がる。メディアも加担して築かれた “アイドル帝国” の実像とはーー」
例によって、証拠もなく事件化もされていないのにまず犯罪ありきで叩くという姿勢だ。補償担当者の対応について、事務所側が冷酷に見えるような印象操作的な演出も行われていた。しかも、番組の最後にはこんなテロップも。
「この問題はこれで終わったとは考えていません」
まだ続けるつもりかと呆れてしまうほど、こちらの執念もそうとうなものだ。
ではなぜ、アベガーやジャニーガーがこれほどの勢いを持ってしまったのか。その根底には、世直しの娯楽化現象とでもいうものがある。それこそ、安倍を暗殺した犯人が一部で英雄扱いされたり「人殺しはよくないが」という欺瞞的言い回しで正当化されたりというように、世の中に対して抱く不満を自分の代わりに発散してくれることを楽しみたい人がいるのだ。
ジャニーズ騒動においても、火付け役のひとりとなったガーシーが「良い暴露もしていた」ともてはやされたりした。また、ベテランの報道キャスター(『ゴゴスマ』の石塚元章)が「(この騒動によって)世の中が良くなった」と公言したときには耳を疑ったものだ。アベガーやジャニーガーはスカッとしたかもしれないが、こんな理不尽なやり方で殺されたり潰されたりするほうはたまったものではない。
そういえば、同時期にユーチューバーによる「私人逮捕」ごっこという騒動も起きた。安倍暗殺もジャニーズ潰しも、根本的にはそれと大して変わらないのではないか。
とまあ、このふたつの出来事については今も怒りが収まらないが、いったん気持ちを鎮めるとしよう。次の回からは、筆者が感じてきたジャニーズの魅力について語ってみたい。もちろん、それを語るうち、敵となってきた側への皮肉などもまた飛び出すことだろうがーー。
文:宝泉薫(作家、芸能評論家)
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