「犬がいるからまともでいられる」AV女優と愛犬のリアル【紗倉まな×神野藍 対談第2回】
【紗倉まな×神野藍】新刊同時発売記念〈対談全4回〉
◾️優先順位は、恋人よりも断然「犬」
紗倉さんは、10代の頃、両親の離婚によって愛犬を手放さざるを得なくなったという“挫折体験”を『犬と厄年』に書いている。
紗倉「私は一人っ子で、両親が共働きで鍵っ子で、学校から帰ってきてずっとひとりで勉強している、という生活でした。ずっと犬との生活に憧れてて、親としても娘を一人にさせている後ろめたさがあったのか、ある日、犬を家に迎え入れてくれて。でも最終的には親が離婚して、住むところもペット不可の物件を母が選んできて、激しい口論になって泣いて泣いて、泣きまくって。仕方がないことだけど、全く仕方なくないじゃないですか。その時の出来事と罪悪感とやるせなさが強く残っていて。懺悔の気持ちでこのエッセイを書いたところもあるくらいに。犬と一緒に過ごしたいけどそういった過去もあったから、一生犬との共生は難しいのかなと思っていたんですけど。30代に入って仕事も生活も安定し始めたこと、実家にいた犬は他の家庭で過ごしていたんですけど、その子が亡くなったっていう報せを聞いたことで、少しずつ意識が変わっていったというか。意識と生活の変化の重ね合わせで、保護犬の譲渡会にたどり着いて。でも審査は落とされると思っていました。行った瞬間大家族しかいなかったので……」

神野「ああいうのって、誰かが絶対に家にいなきゃいけないとか、カップルじゃダメとか、けっこう厳しいじゃないですか。譲渡会の書類って、どんなふうに書いたんですか?」
紗倉「自分のことを包み隠さず書くわけです、年収だったり職業だったり。在宅可能時間だったり、散歩にどのくらい行けるのかだったり、事細かく。職業欄は……最初の雰囲気で『無理だな私』って思って諦めていたこともあって。だって明らかにこの圧倒的大家族集団の中で一番社会的信用がないのは私だから……(笑)。でもこれだけ条件を課してくるわけだから、こちらも誠実に書かなきゃダメだなと思って、AV女優って正直に書いて。その横にライターって書いて。執筆物もたくさん出しているわけだし嘘は書いてない! みたいな。でライターのところに矢印して、なので在宅もできます! AVのところにも矢印して、月に1回だけなんで! って書きましたね(笑)」
神野「あははは(笑)」
紗倉「期待してないわりにはいろいろ補足して(笑)。でも、まあ無理だなぁと思っていたら、すぐに連絡が返ってきて。本当に驚きました。巡り合わせですね。でも、私も猫と暮らすっていう考えはなかったなぁ。好きなんですけどね。犬に対しての思い入れが強いのかもしれないです」
(BT編集部「変な質問かもですが、犬と人だったらどっちが好きですか?」)
紗倉「犬です!」
神野「犬ですね~。犬は裏切らない。犬ほど愛してくれる存在っていないんじゃないかって思います」

紗倉「犬ほど人の気持ちの機微を感じ取れる生き物もいないな」
神野「鏡みたいなんですよね。自分が切羽詰まってると、犬も体調悪くなるんですよ。人間より近いなって思っちゃいます」
紗倉「それすごくわかるなぁ。なんですかね、言葉で交わし合わないからこそ、より本能的に自分のことを察知してる感じもするし。具合が悪い時も気分が沈んでいる時もすぐに察してピタってお尻をくっつけてきてくれて、ありがとうなぁ……! って」

神野「恋愛のうえでも、犬にどう触れ合ってくれるかをめっちゃ見ちゃいますね」
紗倉「それで破談になった話、けっこう知人から聞きます。犬に厳しくて嫌いになりましたとか、犬に対して雑で、とか」
神野「相手が『犬だからいいじゃん』とか言い始めると『お前のほうがどうでもいいよ』みたいな(笑)」

紗倉「そりゃそうだ(笑)だからパートナーに言いたいのは、ごめんなんだけど、この家の中で一番尊くて偉いのはお犬様なんだわ……っていうこと。」
次回は、2人の対照的な「家族」のエピソードをお届けする。
構成・文:BEST T!MES編集部
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✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに