「ゲス不倫」で始まった、メディアと世間が「法を超えて」裁く「私刑」のブーム。ジャニーズはその最大の犠牲者だ【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ゲス不倫」で始まった、メディアと世間が「法を超えて」裁く「私刑」のブーム。ジャニーズはその最大の犠牲者だ【宝泉薫】

「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(6)【宝泉薫】

 

 そこには、性愛の絡んだ不道徳なものを拒絶したいという気分の高まりも影響している。いや、極端にいえば、性そのものを嫌悪する感覚だ。

 それを実感させられたのが、コロナ禍が始まった20年、志村けんが亡くなったときのことだ。訃報にかこつけ、彼の「下ネタ芸」を批判する声が一部で起きることに。これに危機感を覚え「『日本の喜劇王』志村けんの死で終わりかねない、笑える性教育という文化」という記事を書いた。志村の「下ネタ芸」は、特に子供たちにとって、そういう役割も果たしていたからだ。

 

志村けん

 

 ジャニー喜多川をめぐる噂についても、性教育のようなところがあったのではないか。噂の真偽はさておき、なるほど、そういう趣味の人がいるのか、そこからああいうエンタメが生まれるのか、人間って面白いな、などという妄想をかきたてられた人もいるはずだ。もちろん、逆に、そんな趣味なんて許せない、そこから生まれるエンタメなんて嫌いだと感じた人もいるだろう。

 ただ、その噂は噂のまま終わった。死後も事件化していないのだから、それは犯罪でもないわけで、噂をどう思うかは人それぞれの価値観だ。

 ここではっきりと言えるのは、普遍的な利便性志向が生み出す「文明」と違って「文化」は個性的な多様性嗜好から作られるということ。結婚がもっぱら人類共通の文明となってきたなか、不倫に走ってしまう人もいて、そこから面白い芝居や小説も世に出たりした。石田純一の「不倫は文化」発言もそういうことを意味していたわけだ。

 が、その時代に比べ、今は不倫の捉えられ方が変わってしまった。「文化」というより、法を超えた「悪」として見なされるようになったのである。

 それゆえ、メディアと世間が一緒になって、裁くこともできてしまう。そんな流れのなかで、ジャニーズ騒動もまた、法を超えた「悪」として処理されたわけだ。

 そのため、法的にはなんの問題もないにもかかわらず「法を超えた救済」をするハメとなった。それを提案したのが、弁護士を中心とした集団だったのだから、もう馬鹿げているとしかいいようがない。メディアや世間のみならず、司法関係者まで「悪ノリ」しているわけだ。

 そしてついには、そういう空気によって元首相が暗殺される悲劇も起きた。第7回では、そのあたりにも触れることとする。

  

文:宝泉薫(作家、芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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