その雑誌のタイトルは『Title』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」18冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」18冊目
ベストバウトは『噂の眞相』vs『噂』だ。前者の名物編集長・岡留安則氏が〈ライバル以前。ウチではマガイモノ雑誌と呼んで、そのパクリぶりに対して民事で係争中〉とパンチを繰り出せば、後者は〈今回の貴誌(Title)の企画のように、どの雑誌にも競合誌というのがありますが、『噂の眞相』にだけはなかったので参入しただけのことです。ライバル意識を持っていないと言ったら嘘になるでしょうが、記事内容もポリシーも違います〉と反撃する。岡留氏が〈誌面に「志」が感じられず、情報もゴミ箱的でブラックの匂い〉とバッサリ斬り捨てたのに対し、〈弊誌発刊前に岡留氏には事前にご挨拶もし、納得もいただいていたにもかかわらず、なぜ後になって言いがかりをつけるのか理解に苦しみます〉など、係争案件についての見解も含む長文の回答が寄せられた。
自分が担当したページ以外にも見ごたえある企画が並ぶ。2000年で休刊したクオリティマガジン『太陽』(平凡社)の足跡をたどる「『太陽』が輝いていた頃」、同じく2001年で休刊した『週刊宝石』(光文社)の名物企画を徹底分析した「『週刊宝石』“処女探し”全689回一気通貫!!」、ヤクザライター・鈴木智彦による「幻の雑誌『山口組時報』研究」。コラムニスト・山崎浩一による「男性誌黄金時代へタイムトリップ」では、自身の雑誌遍歴と重ね合わせながら、『POPEY』『BRUTUS』『宝島』といった70~80年代雑誌界の舞台裏を綴る。
そして、この号でもうひとつ特筆すべきはグラビアだ。カバーガールも務めた井川遥が「マガジンガール七変化」と称して人気女性誌7誌の愛読者に扮しているのだが、これが可愛いのなんの。いや、単に可愛いだけでなく、その読者像にぴったりハマっているのである。
〈愛読誌『JJ』。20歳、彼氏募集中。国立の実家から、およそ1時間かけて港区にある短大に通っている。(中略)将来の夢はシロガネーゼ〉という短大生に始まり、〈28歳、独身。総合商社に入社して6年〉の『AERA』読者、〈27歳、独身。(中略)日頃の不摂生を半年に1度は反省し、スポーツジムで猛烈にワークアウト〉の『Tarzan』読者ほか、28歳の『すてきな奥さん』読者、22歳の『VOGUE』読者、19歳の『Tokyo Walker』読者、17歳の『egg』読者まで、11歳の幅があるキャラを見事に演じ分けている。
当時の井川遥の実年齢は23歳なので、そう無理のある設定ではないし、スタイリストやヘアメイクの力も大きいと思うけど、『すてきな奥さん』の主婦っぽさ、『egg』のギャルっぽさには驚かされた。その後の井川遥の活躍はご存知のとおりだが、このグラビアの彼女からは、今まさに絶賛ブレイク中の無敵感が漂う。

この雑誌特集号は創刊以来最高の売れ行きだったという。なんと、次号の読者コーナーには、あの井上ひさしからのお便りが載っている。いわく、〈4月号、抜群の出来! 2月号「2001:毒書計画」特集あたりから、ガゼンおもしろくなってきました〉。もちろん自分一人の手柄ではないが、まさか井上ひさしにほめられる日が来るとは思わなかった。
しかしながら、同誌は2001年6月号で編集長交代、スタッフも入れ替えとなる(新谷氏は『週刊文春』に異動)。私の連載「ニュースの心」もここで終わった。そして、翌7月号でデザイナー交代、タイトルロゴも変更、中綴じから平綴じに変わるなど、大幅なリニューアルが施されたのである。
リニューアル号の特集は「メキシコへ逃げる!」。いきなりオシャレになった誌面は、『クレアトラベラー』か『TRANSIT』のよう(どちらも当時はまだないが)。8月号は、なんとスターバックスの特集だ。丸ごと一冊タイアップ広告のようで、鼻白んでしまう。その後もオシャレというかハイブロウな誌面作りで、すっかり興味を失ってしまった。
結局、『Title』は2008年4月号をもって休刊する。リニューアル前より後のほうが圧倒的に長いので、リニューアル自体は成功だったのだろう。正直、広告のための誌面のように見えなくもなかったが、それもまた雑誌の生きる道ではある。
文:新保信長