渋谷陽一とオジー・オズボーンの死が示す虚実の境界線【近田春夫×適菜収】
【近田春夫×適菜収】新連載「言葉とハサミは使いよう」第8回
◾️宇宙は言葉で出来ている。世界は嘘で出来ている
近田:俺はいつも「宇宙は何で出来ているか」と聞かれたら、宇宙は言葉で出来ている。じゃ世界はと問われれば、世界は嘘で出来ているって答えてるのよ。
適菜:いい言葉ですね。
近田:ありがとう。俺も今度から哲学者ってのを肩書きに足そうかな(笑)。
適菜:いいですね。名乗ったもの勝ちですから。
近田:いえる!
適菜:私も作詞の仕事をたいしてしていないのに、作詞家を名乗っていましたから。
近田:ははは! 適菜さんは何になりたいの?
適菜:アスリートになりたい。
近田:それはちょっと……。
適菜:あくまであこがれですよ。昔は走っていたのですが、今は散歩レベルですから。新型コロナが流行する前は、年間200日くらいプールで泳いでいたときもあったのですが、コロナになって入場制限がかかり、プールに行かなくなってしまいました。
近田:コロナで、それまでの習慣をやめざるを得なくなった人間がもう一度元に戻れなくなるケースって多い。その間の分、老化したってことよね。
適菜:でも、再び運動をはじめると修復される部分もあります。肌が若返ったり。
近田:ある程度はそうだけど、老化には逆らえないよ。ある程度フェイドアウトの角度を緩くさせるぐらいは可能だけど。
適菜:そうですね。だから、運動自体を楽しんだほうがいいですね。
近田:そこですよね、本質は。
適菜:たまにプールで考えるのですが、もし明日死ぬとして、それでもプールで泳ぐのかと。ダイエットが目的で泳いでいるやつはプールには行かないだろうけど、泳ぐこと自体が快楽ならプールに行きますよね。
近田:常に「意味は今」よ。
適菜:「現在ただいましかないというのが文化の本当の姿」だと三島由紀夫が言っていましたね。
近田:あの人、そのあたりの直感、センスはいいからね。
適菜:未来を捨てるのでもなく、刹那主義でもなく、過去の蓄積は今という形でしか現れないと言うことですね。
近田:僕もそこに関しては全く同じですね。それ以外、自分の受けてきた教育なり経験からは考えつかないもん。
適菜:これは、余生をどう生きるかという問題とつながってきます。
近田:余生の意味、定義にもよるけど。
適菜:人それぞれですよね。自分で決める人もいるでしょうし。
近田:あ、俗に言う第二の人生?
適菜:単純に違ったことをやりたい。結局、なにをやったら楽しいかですよね。近田さんとのLINE対談は楽しいですよ。
近田:それは光栄だよ。俺も楽しい。
適菜:普段、あまり話が通じる人がいないんですよ。外出しても、安い寿司屋で領収書をもらうだけなのに10分もかかったり、銭湯の浴槽で体を洗うジジイに遭遇したり。そういうことが積み重なって、人間嫌いが進行していく。
近田:だからこれからもお互い忌憚なく遠慮なくLINE対談やってこうね! 前も言ったけど、これは単に「交換書簡」なのに、進んでいくスピードが速い。今の時代のテクノロジーあってのものだよ。
適菜:はい。私はこれからも勝手なことを言い続けます。
文:近田春夫×適菜収