「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」 言葉の定義を知らず、濫用して騒ぐバカなネット民に告ぐ!【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」 言葉の定義を知らず、濫用して騒ぐバカなネット民に告ぐ!【仲正昌樹】

 

◾️雑なマインド・コントロール論の濫用が社会を悪くする

 

 こうしたハラスメントの曖昧さは、統一教会問題やホスト問題に見られるマインド・コントロール(MC)論の濫用とも繋がっている――詳しくは、これまでBEST T!MESに掲載された拙稿『「統一教会問題」と「ホスト問題」の意外な共通点とは』などを参照。信者の高額な献金や女性客の金遣いが、たとえ形の上で自発的な合意によるように見えても、第三者から見て、おかしいということはある。しかし、本人がやめようと思えばやめられるはずの宗教やホストクラブに、企業や学校と同じ「ハラスメント」概念を適用することはできない。反統一のサヨクもさすがに、高額献金をハラスメントとは呼ばない。

 そこで組織的な圧力の代わりに、MCによって断れない状況に追い込まれている、ということにしてしまう。無論、MCされている状態とはどういう状態か科学的に定義されていないし、その人がどういう状況でどうMCされて、何を具体的に決めたつもりにさせられたのか、明らかにされることはない。悪い(と予め決まっている)奴を、思い切り叩き潰すための口実にすぎない。

 「ハラスメント」の方は、問題・領域ごとにかなりのばらつきがあるものの、徐々に判定のためのルールが整えられつつあるが、MCについてはそんなものは一切ない。統一教会問題の推移を見る限り、私はMCされたと本人が主張すれば、そのまままかり通ってしまうことになりかねない。理不尽な要求でも断りにくい関係性、心理的な状況で、「ハラスメント」を当てはめにくいものがあるのは確かであり、それを法はどう扱うべきか考える必要がある。しかし、それを「MCによって心が操られ、自由意志がない状態…」と断定するのは雑すぎる。

 近代社会の基礎になっている「合意」が本当に自発的なものなのか、何かの強制によって「合意」したふりをさせられていないか疑い、いろんな角度から吟味することは必要だ。しかし、疑わしいからといって、関係ないネット民が強制によるものと勝手に決めつけてハラスメント認定してキャンセル運動を起こしたり、怪しい集団だと思ったら、MCだと騒ぎまわって相手を追い詰めるといったことが頻発したら、余計に住みにくい社会になる。

 

文:仲正昌樹

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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