なぜ日本のIT現場は“炎上プロジェクト”ばかりなのか?『人が壊れるマネジメント』著者に聞く【谷口友妃】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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なぜ日本のIT現場は“炎上プロジェクト”ばかりなのか?『人が壊れるマネジメント』著者に聞く【谷口友妃】

なぜIT企業では人間が壊れるのか? 話題の著者・橋本将功氏インタビュー

■メンタルは「針金」、折れる前に逃げる

 

 取材の最後に、メンタルを平穏に保ちながらIT業界で働き続けるためのヒントを聞いた。

「この業界では転職が当たり前です。会社や環境におけるガチャがハズレる場合もあるので、自分の努力や提案を正しく評価してくれないところに長居しないことだと思います」

 これは「石の上にも3年」派の人からすれば、抵抗がある考え方かもしれない。しかし、とくに以下のような職場はヤバい。

「たとえば、上司が部下にダブルバインド(矛盾した二つのメッセージを送り、どちらを選んでも不安や罪悪感などが生じる状態になること)を仕掛けてくる会社や、ミスやトラブルを突いてくるような会社とは長く付き合わない方が良いです」

 また、メンタルダウンが続くと、どんどん視野が狭くなってくる。

「そこで『もう嫌だ!やめてやる』と決意できればいいのですが、そう思えない場合は、自覚がないまま最後まで自分を追い詰めてしまいます。そういうケースは非常に多いですね。とくに人に弱みを見せたくないタイプの場合は、周りも気付かないうちにある日突然……ということもあり得ます」

 筆者は、これまでIT企業で疲弊する人々の事例を多く見聞きしてきた。自死した事例も知っている。その話を橋本さんにすると、共感するように頷いていた。

「人間のメンタルは針金みたいだなと思うんです。弾力があるので一定のところまで曲げても元に戻りますが、一定のラインを越えると折れた癖がついて元に戻らなくなってしまいます。だから、自分が悪いとか、頑張りが足りないから、などと思い詰めて壊れるまで仕事をしてはいけません」

 逃げるが勝ちなのだ。すでに折れそうなほど心にダメージを負っている人には、ストレスの低い職場を探したり、思い切って業種を変えたりすることを勧めている。

 IT業界は長年メンタル疾患で退職する人が全業界でトップクラスだった。しかし橋本さんのようにプロジェクトマネジメントのプロが声を上げ、AIツールも登場する中、古い慣習による働きづらさは徐々に改善されていくことを期待したい。

 

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取材・文:谷口友妃

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谷口 友妃

たにぐち ゆき

幼少期に父を亡くしシングルマザーの家庭で育つ。心臓病の母との生活で感じた社会の歪みや、働く意味を求めて天職探しをした経験などから「仕事と生きがい」、「幸せな社会のつくり方」などのテーマに関心を持つ。2014年から執筆業を始め、多様な業界で働く人を紹介する社内報の巻頭記事や医療情報の取材記事、介護問題を扱う著名人の連載インタビュー企画などを担当。過去に取材した人の数は2000人以上にのぼる。読売新聞オンライン、みんなの介護「賢人論。」などに記事を執筆。

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