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韓国大統領選挙に見る「排除と抑圧」の台頭【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」54

韓国大統領選挙。最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(写真中央、2025年6月2日、撮影:AP/アフロ)

 

◆進歩への絶望がもたらすもの

 時代の経過とともに、物事はどんどん望ましいものになってゆく。

 このような「進歩」の発想は、18世紀後半に誕生したものですが、20世紀に入るころには世界的に定着、なじみ深いものとなりました。

 

 けれども21世紀の世界では、新自由主義型グローバリズムによる格差の拡大、気候変動による自然環境の悪化、新たな感染症によるパンデミックの危機など、解決のメドの立たない問題が多々存在する。

 これでなお進歩を信じようとすれば、首尾一貫した現実認識を解体することで、「いや、物事はうまく行っているんだ!」と自他に言い聞かせるしかありません。

 しかしこれは「自分の都合にあわせて認識をどんどん歪める」のとイコールですから、物事は「何でもあり」になってゆき、いよいよ収拾がつかなくなります。

 これは何をもたらすか?

 

 お分かりですね。

 未来への展望が拓けない以上、過去が魅力的に見えてくるのです。

 パッとしない「現状」を捨てて、古き良き「原状」に戻りたい、そんな話になってくる。

 人間の自然な心理でしょう。

 

 ところが過去回帰を実践しようとすると、とんでもないことになる。

 戻るべき原状は、収拾のつかない現状によって否定されているのです。

 原状を取り戻すには、まず現状を否定しなければならない。

 ずばり、破壊に走るしかありません。

 

 のみならず。

 世界を丸ごと過去に戻すなど、しょせん不可能事。

 ゆえに過去回帰をめざす者は、ただでさえ歪んだ現実認識をさらに歪曲、「いや、原状は甦りつつあるんだ!」と自他に言い聞かせつつ、破壊を繰り広げるハメに陥る。

 物事がいよいよメチャクチャになるのは避けられません。

 つまりは失敗を運命づけられているのですが・・・

 

 その過程で見過ごせない副作用が生じる。

 「原状回復のための現状破壊」の試みは、社会の分断を激化させるのです!

 これは何に行き着くか?

 「韓国戒厳令騒ぎの『滅亡と絶望』」に続き、今回も隣国の政治情勢を題材に、この点をさぐってゆきましょう。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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