人間、50を越えたら牛肉を食べるのはやめたほうがいい【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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人間、50を越えたら牛肉を食べるのはやめたほうがいい【適菜収】

【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第3回


時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、書籍化(『日本崩壊  百の兆候526日発売)されます。新連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。今回のターゲットは肉。特に牛肉はやめたほうがいいと説く適菜氏の連載第3回。


焼肉(イメージ写真:PIXTA)

 

肉をやめる

 

 50を越えたらいろいろなものを縮小していったほうがいいという話をこれまでしてきたが、牛肉を食べるのも卒業したほうがいい。そもそも人間は肉を食べなくても生きていくことはできる。肉を食べるのは業(ごう)が深いからである。それでも、若いころは肉が必要かもしれない。これは広末涼子の知人から聞いた話(大昔)だが、彼女に肉を食べさせると、いろいろなことが過剰になってしまうらしい。若いときは過剰でもいいが、50を越えて肉を過度に求めるのはみっともない。

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 医者は歳をとっても肉を食べろと言うかもしれない。ダイエットの指導者は、筋肉をつけて基礎代謝をあげるために鶏の胸肉を食べろと言うかもしれない。だったら、まずは牛肉をやめてはどうか。牛が吐き出すメタンガスは、地球温暖化の原因になっている。みんなが牛肉を食べるのをやめれば、世界は平和になる(ような気がする)。

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 私は昔から焼き肉屋が理解できなかった。そもそも焼き肉は料理なのか?

 焼き肉屋は、冷蔵庫に肉を入れておいて、それを切って客に出す。店員が焼くならまだしも、客はそれを自分で焼いて食べる。醤油に砂糖やゴマやニンニクを入れたタレを出し、「さあ、食え」と言われても「嫌だ」としか言いようがない。たしかに自宅で肉を焼けば、煙や油で部屋が汚れるので、店が場を提供するというのは理屈としてはわかる。また、冷麺やクッパがおいしいといった付加価値があるならわからないでもない。それでもどこか腑に落ちない。

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 フレンチでもイタリアンでも中華料理でも肉料理の背景には文化と歴史がある。トンカツにしても焼きトンにしても、客は料理人の技量を求めて行く。でも焼き肉は違う。

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 余談だが、「ロッシーニ風」というのがある。牛ヒレ肉にフォアグラとトリュフを乗せて、マデラソースをかける。バカじゃないのと思ってしまう。

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 あるときネットをぼんやり見ていたら、秋元康おすすめの焼き肉屋という動画が出てきたので、閉じた。AKB48という人たちがいるが、あれは焼肉バイキングのようなものではないか。

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 石和にある某チェーンの温泉旅館に泊まったとき、夕食のバイキングで牛ステーキがあったので食べてみた。濃い目のソースでごまかしているが、牛肉の端材などを結着剤で固めた成形肉だった。その後、胃の調子が悪くなり、体から嫌な臭いがでてきた。勘弁してほしい。

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 30年ほど前、私は某フォークデュオの付き人をやっていた。付き人と言ってもただ一緒に遊ぶだけなのだが、ボーカルのM氏に早稲田通りと明治通りの交差点近くにあった焼き肉屋によく連れていかれた。そこが信じられないくらいまずい。カルビが380円、ロースが480円程度の安い店だが、肉の質が悪すぎるので高く感じる。店に入ると、七輪とキャベツの屑と醤油に砂糖を溶かしただけ(と思われる)タレが出てくる。私はM氏に誘われるたびに「あの焼き肉屋には行きたくない」と拒絶していたが、私が嫌がるのが面白かったのか、あるいは意固地になったのかM氏は「焼き肉はあの店が間違いない」と言うようになった。私はなるべく肉を食べなかったが、これでは牛もかわいそう。おいしいと言われて食べられるならまだしも、貧乏な学生風情にまずいと言われるなら成仏できない。

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 牛肉がなくなっても代用品は山ほどある。ステーキ屋はトンテキ屋に、しゃぶしゃぶ屋は豚しゃぶ屋になればいい。吉野家と松屋はフルーツパーラ―になればいい。また、肉でなくてもタンパク質を取ることはできる。納豆に温泉卵を載せれば、高タンパク、低カロリーで、おやつの代わりにもなる。

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 豆腐を使ったステーキやハンバーグ、ミートボールもある。しかし、そこまでして「肉のようなもの」を食べたいのだろうか。個人的な経験では、しばらく肉を食べないと、「肉を食べたい」という気持ち自体が消滅する。

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 一般の日本人が牛肉を食べるようになったのはそれほど昔ではない。せいぜい明治以降で、江戸時代には滋養強壮の薬とされてきた。先日、実家で聞いて驚いた話がある。お歳暮でローストビーフが送られてきたが、肉が赤かったので、フライパンで焼いて食べたとのこと。頭がおかしい。そこでは明治初頭で時間が止まっていたわけだ。

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 昔、インドのカルカッタで知り合った日本人の女子大生が「おいしいステーキ屋さんがある」と言う。私はサダルストリートという安宿が集まるところに泊まっていたが、目の前の道を野良牛が歩いていた。ヒンドゥー教では牛は神聖な動物なので丁寧に扱われるし、食べることもない。結論から言えば、そのステーキ屋が出していたのは水牛だった。なぜ水牛ならいいのか理由はわからないが。店に一緒に行ったとき、女子大生はノースリーブを着ていて、インド人のウェイターが立ち止まり凝視していた。肉欲か。

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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