AV女優「渡辺まお」の身バレが起きたとき、私が思った本当のこと【神野藍】『私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録』
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第3回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、しずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」連載第3回。
✴︎連載全50回分を加筆修正し、書き下ろし原稿を加えて一冊に編んだ単行本『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』が6月17日に発売決定・予約開始!作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイ!

【私がAV女優になっていなかったら】
嫌いでも好きでもない。誇るものでも懐かしさを覚えるものでもない。「地元」という認識も薄く、どちらかというと「そこに生まれたからそこで育った」ぐらいの気持ちだ。きっと私の生い立ちは大して面白くない。「家庭環境が最悪だった」「非行ばっかりしていた」「家に借金がある」とかみんなが望む分かりやすい不幸な要因は存在しない。
存在しないからこそ人は私の過去が気になるのだろう、「まっとうに育ったのにどうして」と。「AV女優がまっとうな生き方ではない」と考える人からすれば、そう思うのは自然なことだろう。ただそれはあなたがこれまで歩んできた人生で形成された価値観であって、私の価値観ではない。何が大切で、何が許せないかはそれぞれ個人が決定することだ。
人生は選択の連続だ。生まれてから死ぬまで定められたルートだけを歩むわけがない。何度も選択を迫られて、ここまでたどり着いた。それが正解か間違いかは死ぬときにならないと最終的には判断はつかないだろうが、現時点では私にとっては正しい道だったのだと思う。AV女優になっていようがいまいが、きっと楽しい人生は送れていただろうが、ここまでガツンとした刺激は得られなかったし、何よりAV女優になったことで今まで見えなかったことが見えるようになった。それは私にとって非常に大きな収穫であった。
そのまま女優にならないで過ごしていたら、今頃私は人の痛みが分からない、それこそ排他的で、学歴主義のつまらない人間が出来上がっていただろう。人を見て「なんでそんなこともできないの、なぜ理解できないの」が心の中の口癖になっていたのかもしれない。そんな風にならなくて心底ほっとしている。人の痛みに気が付けるのも、人に寄り添えるようになったのも、そして思いのほか「生を渇望している」ということを理解できたのも、あの二年間があったからだ。
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✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
が6月17日に発売決定・予約開始!
✴︎
「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに