20代にして年収6000万円!から奈落の底へと転げ落ちたあの2000年【斉藤啓】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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20代にして年収6000万円!から奈落の底へと転げ落ちたあの2000年【斉藤啓】

どーしたって装丁GUY 第1回

■想定外を探しにいこう

 

 高校時代、友達の部屋に貼ってあった横尾忠則さんのポスター作品にいたく衝撃を受けました。いまだその時のことを適切に表現できないんですが、突然視点が置き換わったというか、世界のすべてが変わって見えたんです。よし、おれも横尾さんみたいになってカッコよくてオリジナルなグラフィックデザイン作品を作って皆をあっと言わせるんだ!と決めたあの日。

 それから人生のいたるところにさまざまな選択と決断がありました。が、たどりつけばいつも想定外の結果が待っていました。いい結果も、たとえ最悪の結果でも。

「ああなると思ってたら、こうなるんかーい」。この繰り返し。

 終わりのない不況と斜陽にあえぎ変質してゆく広告業界のウラ側。出版業界で遭遇した数々のトンデモな出来事。モダンアート業界のむしろカビ臭いほど古すぎる風習。真っ暗闇の地獄だと思っていた場所で見つけたキラキラ輝く宝石のような体験。そしてそこで出会った忘れられない素敵な人たち。

 恥ずかしくも懐かしくて愛おしくもホロ苦い。そんなことを、つねに時代とともにうつろい変化してゆく東京という街を舞台に書き綴っていていけたらなと思います。

 「想定外」とは一歩踏み出した人間に与えられるメダルのようなものかもしれません。自分の名前と日付が刻印され、ちょうど東京タワーの登頂記念メダルのような金ピカのメッキで覆われたいかにも子供っぽいガラクタ。

 世間様にとっては何の価値もないそれを、みなさんだって自分の胸にそっと大事にコレクションしていることをぼくは知っていますよ。

 コスパ重視で~、とか、持続可能な~、とか。そんなクソもおもしろくもない概念も価値観もサッサと捨て去って、みなさん、このコラムをおともに、ぼくと一緒に想定外を探しにいきませんか。

文:斉藤啓

 

※1 ネオ東京:大友克洋によるSF漫画「AKIRA」に登場する東京湾上に建設された都市。映画版「AKIRA」は1988年公開
※2 40畳:72.962㎡。部屋全体では125㎡くらいありました
※3 消費税5%:1989年竹下政権時に消費税3%が初導入され、1997年橋本政権時に5%に引き上げされた
※4 小渕総理:小渕 恵三。第84代内閣総理大臣。記者との囲み会見中に脳梗塞の症状が発症したとされ翌日緊急入院し、2000年5月14日死去。ご冥福をお祈りします
※5 Y2K:2000年問題。西暦2000年になるとコンピュータや電子機器が誤作動を起こし大パニックになる可能性があるとされた問題。今となっては笑い話
※6 残業300時間:休日含め朝10時から朝5時まで仕事してたら意外に簡単に達成できます
※7 JT:日本たばこ産業株式会社。前身は特殊法人日本専売公社で1985年に民営化され設立。あの頃はほんっとにお世話になり ました。感謝の言葉を伝える機会すらなく離れてしまったので…。いっぱい勉強させてもらってガチンコで鍛えていただきましてありがとうございました
※8 博報堂:日本を代表する大手広告代理店。当時は東京都港区芝浦が本社(うちからすぐそこでした)
※9 NIKE AIR JORDAN 4:1989年発売。エア・ジョーダンは4まで日本未発売だったのでアメ横で並行モノ買いました。1999年発 売のレトロではない
※10 BIG E:赤タブのEが大文字のLevi’sのビンテージモデル。90年くらいまでは原宿でも70505のBIG Eなら1万円台で買えた
※11 エクスプローラー1:ロレックス エクスプローラー 1 Ref.5500
※12 CITY BANK:2000年代後半あたりから行政処分やら経営悪化やらでゴタゴタが続き、CITY BANK本体は日本から撤退
※13 電子メール:仕事の連絡は固定電話や携帯電話での直接会話が主流でした。1999年ごろから仕事でもポツポツ使われるようになり始めましたが、マジで全然メールチェックしてなかったですね
※14 iモードメール:1999年にリリースされたNTTドコモのインターネットサービスに付帯した電子メールのサービス。絵文 字、デコメールはこの時初出現
※15 MO:データ保存用光磁気ディスク。何度でも書き込みできるから便利。MACのスロットがMO非対応になりCDに変 わった時点で、市場から絶滅。ちなみにフロッピーの容量は2MBもないw
※16 ISDN回線:デジタル公衆交換電話網。1990年代後半にインターネットへのダイヤルアップ接続用途で一般に普及した。 2024年1月に役目を終えサービス終了
※17 イット革命:2000年4月、IT戦略会議に出席した森喜朗総理大臣がITを「イット」と読み間違える珍事が由来
※18 Power Mac 7100:Power PCを搭載した当時のMacintoshの主力マシン。2000年はもうG3出てましたけどトラブル続き
※19 フィン・ユール:デンマークの家具デザイナー。1989年没。いわゆるミッドセンチュリー系でありながら他とは一味違う繊細で流麗なフォルムが特徴
※20:1993年新語・流行語大賞銀賞を受賞したダチョウ倶楽部のギャグ。2000年にこれを使うのはさすがにセンス古すぎ

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斉藤 啓

さいとう けい

装丁家 グラフィックデザイナー アートディレクター

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科中退。有限会社ブッダプロダクションズ代表。メインのお仕事は書籍の装丁ですが、ファッションなどの広告や、企業団体のディレクションなどもやってます。たまにBDAP名義でアーティストも。ヒマな時は山登りかチャリ乗ってます。HIPHOPと麻婆豆腐が好き。ニューヨークADC Distinctive Merit。ニューヨークTDC、ニューヨーク・フェスティバル、ショーモン国際ポスターフェスティバル(仏)ほか国内外のデザインコンペティションで受賞多数。

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