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シンプルで胸を打つ、ノムさんの言葉。「己を知ることから始めよ」「能力には限界があるが、思考力には限界はない」

正しい努力だけが人間を成長させる

 

◆己を知ることから始めよ

 ────バッターとしての自分のタイプを見極める

 日本シリーズもたけなわ。より一層、楽しむためのヒントをノムさんこと、野村監督の言葉から紐解いてみた。

 ────私はバッターには、ホームランバッターとかアベレージヒッターという以外に、来たボールにどのように対応するかという意味で、4つのタイプがあると考えている。

 

 ①ストレートのタイミングでボールを待ち、変化球が来たときにもそれに対応する。

 ②内角か外角か、狙い球のコースをあらかじめ決めて打つ。

 ③ライト方向かレフト方向か、打つ方向を決めたうえでボールを待つ。

 ④ストレートか変化球か、変化球ならどんなボールか、あらかじめ球種を絞ったうえでボールを待つ。

 

 南海に入団して4年目に壁にぶち当たるまでの私は、

 ①「ストレートのタイミングでボールを待ち、変化球が来たときにもそれに対応する」という姿勢でバッターボックスに入っていた。

 しかし①が実際にできるのは、現役選手でいえばイチローのような天才タイプの器用なバッターだけである。つまり先天的な能力が必要とされる。

 一方、私はイチローとは対照的に、不器用すぎるぐらいに不器用なバッターだった。ストレートを待っているときに変化球が来ると、応用動作が効かないから、バットがボールに柔軟についていかないのである。

 にもかかわらず①の姿勢で臨んでいたのだから、それは打率が低迷するのは当然である。

 そこで私は自分の不器用さを素直に認めることにした。バッターとしての先天的な能力に見切りをつけたのである。そして④「ストレートか変化球か、変化球ならどんなボールか、あらかじめ球種を絞ったうえでボールを待つ」バッターになることを目指したのだ。

 バッターにもっとも大切なのは、「自分がどんなバッターになりたくて、そのためにどんな練習が必要なのか」をしっかりと定めたうえで野球に臨むことである。

 それがないと、どれほど努力を重ねても間違った努力になる。

 

 私の場合は、これまでのやり方を改めて、「バッテリーの狙いを読んで、ヤマを張って勝負ができるバッターになる」という目標を定めた。

 そして「単なるヤマ勘」ではなく「根拠に基づいた読みの力」を磨くために努力を重ねることにしたのである。

 正しい努力をすることが大事であるというのは、そういう意味である。

 

◆能力には限界があるが、思考力には限界はない

 

 野球というスポーツは、シンプルに言えば「投げる」「打つ」「守る」「走る」の4つの要素から成り立っている。

 この4つの要素は、ある程度までは努力によって能力を伸ばすことができるが、どこかで必ず限界に突きあたることになる。

 ピッチャーでいえば、練習を積めば誰もが150キロ台のボールを投げられるようになるわけではない。速球投手になれるかどうかは、天性の才能によるところが圧倒的大部分を占める。

 またバッターでいえば、ボールを遠くへ運ぶ能力についても、天性の才能によるものだ。

 だから130キロ台のボールしか投げられないピッチャーが、150キロ台のボールを投げようと努力をするのは、間違った努力である。

 同様に短距離打者がホームラン数を増やそうと努力するのも、間違った努力である。

 天性の才能ばかりは、自分ではどうしようもない。受け入れるしかないのだ。

 ただし天から授かった才能には限界はあるが、人間の思考力には限界がないと私は思っている。

 130キロ台のボールしか投げられないのであれば、どうすればその球速で相手打者を打ち取れるか、「思考」の限界まで考え抜くことが大事である。

 そして130キロ台で勝負できるピッチャーへと、「勇気」を持って今の自分を変えていけばいいのだ。

 事実、日本ハムで活躍した武田勝というサウスポーのピッチャーは、チェンジアップとシュートを身につけたことによって、快速球は投げられなくてもプロで通用するピッチャーへと変貌を遂げていった。

 武田はプロ入りする前は社会人野球のシダックスに所属していた。そう、ちょうど私がシダックスの監督を務めていた時期である。

 武田は、私の助言を素直に受け止めた。人の助言を素直に受け止められる選手は、意外と少ないものだ。

 こうした成功例は、ある意味、「天から恵まれた才能を授からなかった人間」だからこその「特権」であるといえる。

 凡人は素質だけでは勝負できない。必ず壁にぶち当たる。苦労をする。だからこそ己が生きる道を必死で考え、変わることができるのである。

 人間の本当の勝負は、「実は自分にはたいした素質があるわけではない」と気づいたところから始まるのである────。

『凡人の強み』より構成

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