第1回:「動物のマーク パンダ 修正」「ハゲ  躊躇」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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第1回:「動物のマーク パンダ 修正」「ハゲ  躊躇」

 

<第1回>
8月×日 【動物のマーク パンダ 習性】

引越しの見積もり。近々、引っ越すのである。
 

ハトのマークの引越し屋さんに見積もりにきてもらった。

ハトとかアリとかゾウとか、引越し界はまるでサファリパークである。

他にどのくらい動物のバリエーションがあるのか気になって「引越し屋 動物のマーク」でグーグル検索。検索結果を眺めながら「そうかそうか、カンガルーとかパンダのマークの引越会社もあったっけ」などと無駄に再認識する。

やはり各社、「運送」のイメージに近い動物を選んだのだろうか。ハトはたしかに軽やかに移動するイメージがある。

アリは物を一生懸命運ぶイメージだ。
ゾウは力もちという感じか。
カンガルーは袋に子どもを入れて移動してるもんな。

パンダ・・・。

おかしい。

パンダには全然、「運送」のイメージがない。
人間にケツを向けながらダラダラしているイメージしかない。

しかしそれは自分の勝手な思い込みで、本当はパンダには運送にまつわる習性のようなものがあるのかもしれない。「パンダ 運送 習性」でグーグル検索。

すると関連キーワードで、「中国で起きたパンダ連続射殺事件」の記事がひっかかった。なんでも犯人は毛皮欲しさに野生のパンダを射殺、17年間の逃亡の末に昨年、逮捕されたという。
「パンダ連続射殺事件」という、可愛いんだかデストロイなんだかわからない事件名にも驚いたが、「17年間の逃亡」という部分にも驚いた。
 

いやだなあ、パンダを殺して17年間も逃亡生活をするなんて。
来る日も来る日も、パンダへの罪悪感から、白黒のものを見ると、思わず目をそむけてしまう日々。
横断歩道、オセロ、オレオ、映画「アーティスト」、マイケル・ジャクソン。
それら白黒のものが目の前に現れるたびに、罪の意識にさいなまれる犯人。

その上、殺したパンダに呪われるかもしれない。笹しか食べられなくなってしまったり、外交の手段として使われたり、睡眠中も目の前に人だかりができてしまったりする、そんな呪いだ。

そんな17年間、考えただけでも気が狂いそうである。
 

そんなことを考えていたら、見積もりが終わっていた。ハトのマークの会社の人は、非常に親切であった。
 

結局、パンダと運送の関連性については全然わからなかった。

 

 

8月×日【ハゲ 躊躇】

喫茶店で作業をしていたら、向かいの席のサラリーマンが広げた新聞にでかでかと「もう、お辞儀をするときに、躊躇しなくていい!」という文字が掲げられていて、すわ何事かと身をのりだす。

よくよく見たら、頭のハゲをごまかすためのふりかけパウダー商品の広告ページだった。
 

その広告のコピーを目にして、「そうか!ハゲは人に頭を下げる時は、躊躇しなきゃいけないんだ!」と目から鱗が落ちる。
 

僕は現在30歳を前にして、頭髪がどんどん薄くなっており、前髪は「リアス式海岸か」みたいなことになっているし、後頭部も深刻な砂漠化が叫ばれている。いま、たけし軍団に入ったら、確実に「ハゲ太郎」的な無体な芸名を殿に授けられることは必至だ。
 

しかし僕は、今まで一度たりとも、人に頭を下げる際に躊躇などしたことがなかった。
躊躇をしなければいけないなど、考えたことすらなかった。
なんのプライドもなくクイックで頭を下げ、なんなら地面に落ちている10円玉を目ざとく見つける。そんな人生を歩んできた。
 

僕以外のハゲは、みんな躊躇して生きていたとは。
 

しかし、待て。
本当にハゲの皆様は躊躇しながら生きているのか?

いぶかしく感じ、すぐさまiPadで「ハゲ 躊躇」をグーグル検索。
そしたらYAHOO!知恵袋で、「彼氏がハゲているのですが、彼の遺伝で将来ハゲの子どもが生まれるのではないかと考えてしまい、結婚を躊躇しています」という悩み相談があった。
なんと、ハゲている本人が躊躇するだけでなく、そのパートナーまでもが躊躇しているとは。そして、こんなにも多方面に人を傷つける相談が存在するとは。
 

それに対して「ハゲは性欲が強いですよ」という、なんの解決にもならなさそうなコメントを寄せている人がいて、なぜかそれがベストアンサーに選ばれていた。
 

今日わかったこと。
「ハゲは、躊躇を生む。あと、ハゲは性欲が強い」。
 

僕にはこれから先、さらにハゲゆく未来が待っているだろう。
それは、これまでの「まだ四捨五入でいうと髪があった」過去とは、全く違う人生であるはずだ。

今後、薄毛人間として、どう生きていくのか。
そのベストアンサーを探す旅。
それが僕の30歳からの生き方である。

*本連載は毎月第1第3水曜日に更新予定です。

 

 

 

ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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