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TPPに反対する理由食料問題は
市場経済に馴染まない!

食料は、文明が造り出した便利な品々とは異なる

 

◆食料は、文明が造り出した便利な品々とは異なり、市場経済には馴染まない!

 いよいよアメリカの大統領選挙が近づいてきた。いろいろと懸念材料が報道されているが、トランプもヒラリーも反対としているのがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)である。
 果たしてアメリカ抜きで実行されるのかどうかも焦点だが、一貫してTPP反対を唱え、食料自給利率100パーセントを目指さない国に未来はない、「地産地消」を訴えているのが、法政大学大学院「食と農」研究所・前副所長特任研究員の島﨑治道(しまざき・はるみち)氏だ。
 氏は、TPPこそが究極の「食の国際化」であり、食問題を市場経済のなかに含めて考えることは大きな誤りであると述べる。なぜなら、食料は経済の範疇に入らない生命維持産業であるからだと言う。
 以下、島﨑氏の主張の一端を要約してみたい。
 

 『政府や大企業のリーダーは「効率の良い経済で稼いだお金で、安い輸入食料を買えば良い。」と言っています。わが国を農地もない、農民もいない、食料生産のできない国にしようとしているのでしょうか。
 日本は2015年10月5日、TPPに合意し、2016年2月4日、ニュージーランドのオークランドで協定に署名しました。TPPが発効され、わが国が何の対策も行わなければ、食料自給率は13%に低下すると、平成22年12月22日、農水省は、『TPPが日本の農業・食品製造業等に及ぼす影響』のなかで述べています。
 今こそ、TPP上陸に当たり、わが国の「食」を防衛することが、第一優先の時を迎えています。
 そもそも食料は、文明が造り出した便利な品々とは対立関係にあります。
 市場が価格を決める市場経済は、文明が造り出した便利な品々を基本として、利益を目的に成立しています。利益面だけで言えば、便利な品々の場合は、たとえ原価のかかっていない粗製濫造の商品であっても買い手が納得していれば、交換価値は成立し、売り手は大きな利益を得ることができます。
 しかし、〝食=命〟の食料と消費者との関係は、消費者にとって食料の安定した確保と同時に、安全であることが何よりも優先されます。
 
 例えば、スマートフォンや新型自動車が売れ切れて、買えない状態でも、一か月後に入手できれば、命に関わることはありません。しかし、主食のコメやムギが、必要とする日より一か月後でなければ入手できない事態になれば、命に関わる大問題です。
 食料価格は、需給関係によって決定されるため、高額な食料だからといって、安全とは限りません。高額な食料であっても、身体に悪い食料であれば、高い買い物をした上に健康を損ねることになり、お金では換算できない命に関わる代償を支払うことになります。
 食料は、便利な品々の交換価値とは異なり、資本の論理は通用しないため、大資本による資本の論理に組み込まれないよう峻別する必要があるのです。
〝あなた作る人、わたし食べる人〟という「食」の分業化は、幻想にすぎません。もし、お金を支払えば、食料は買えるものと考えているのであれば、お金を支払えなくなった時点で、飢えてしまいます。
 また、食料そのものがなかった場合には、たとえお金があったとしても最悪の事態に陥ることになります。
 
 ◆いつの時代も食料問題は戦争を引き起こす

 食料は、文明が造り出した便利な品々とは異なり、市場経済には馴染まないのです。今日も食べ物がない。明日も食品の確保が難しい、という人々が大勢集まれば、食べ物の略奪が常習化し不安定な社会になります。
 それが地域全体の問題になれば、紛争への導火線となり、国全体に及べば、他国への侵略戦争へと発展していくのが世の常です。
 
 例えば、アフリカの多くの地域や国で勃発している紛争の主な原因としては、政治上・人種上・宗教上の迫害が問題視されていますが、それらは形容であって、根本的な原因は、その地域や国が必要としている食料の生産量が不足していることであると私は考えています。
 一日に三度の食事が普通に食べられていれば、集団で戦う必然性がないからです。留意点として、紛争や戦争への最悪のシナリオになる原因は「食の国際化」という名を借りて、人間が生きていく上で最も大切な「食」を資本の論理に組み込むことにより、他地域や外国に委ねてしまう「依存」にあるのです。

 TPPの目的は、「食」の国境の壁を取り払い、国や地域の持つ特性を剥奪し、強い国や企業だけが勝利する弱肉強食の社会をつくることです。TPPは、〝食=命〟の食料を主導にしているため、単なる経済戦争に止まらず、弱者同士が「食」を求めて、血で血を洗う勝ち目のない戦争に巻き込まれていくことは必至です。
 戦争とは、当事者が最も大切にしているものを失うということです。TPPは、この忌まわしい事態を避けて通ることはできないのです。
 あたかも、TPPに参加すれば、加盟国によって、「食料安全保障」を得たかのように誤解している人々がいますが、食料の確保を保障する協定ではないことを承知して下さい。
 
 食料は経済活動ではなく生活活動です。市場経済のなかに食料を含めることは誤りです。食料は経済の範疇には入らない生命維持産業だからです。
 世界の食料需給は逼迫していて、わが国が食料の輸入を拡大することは、世界にテロや戦争を輸出しているのと同様です。わが国の生活者の〝幸せ〟を願い、平和で豊かな永続性のある国づくりのためには、「食の国際化」から脱却し「食の地域化」が絶対条件です────』

 島﨑氏は現在も、自給率100%を目指した『地産地消』を訴えた本を執筆中であると言う。TPP賛成派、反対派とそれぞれの考え方があるのだろうが、「私は戦争を体験しています。賛成派とはその差が大きいのではないかとも思っています」
 という、氏の言葉に今後も耳を傾けてみる必要がありそうだ。

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