■メンタルが体を凌駕した瞬間

 実は3回を終わったあたりに足がつりそうな雰囲気があった。でも、それを凌駕するほど精神的には充実していた。行ける。気にならない……。野次もなにも聞こえない。自分だけの、いやチームメイトとの充実した一体感があった。サードのポロは三塁線の打球を飛びついて好捕しアウトにしてくれたし、ファーストのイオウちゃん(井生広大)はデッドボールを受けた後で脚が痛いにも関わらず強い打球を体で止めてくれた。ほかにも、僕の後ろには、打球が飛んでこようとこまいと、僕の一球一球にスタートの構えを取り、「飛んで来い、アウトにしてやるから」と準備してくれるチームメイトがいた。

 運命の五回。これを0点でしのげば勝ち投手の権利が手に入る。

 前の回くらいから、握力が少しずつなくなっていたのだけれど、気持ちが勝り気になるほどではなかった。先頭の四番バッターをセカンドフライに打ち取りワンアウト。五番は交流もある松澤(裕介)選手。昨年、ドラフトでジャイアンツに指名されたもののケガがあったため辞退した左の強打者だ。追い込んでからファールで粘られ、結局この試合ふたつめのフォアボールを出してしまう。

 ここで、またパッと違う世界が広がった。外の声が聞こえ始めたのだ。

「ボールたれてるぞ!」

 たれてるというのは、ストレートの勢いがなくなっている、という意味なのだけれど、そういう声が聞こえ始めたのだ。それでも次のバッターをライトフライに打ち取り、あとワンアウト。

 しかし……ここから連続フォアボールを出してしまい、ツーアウト満塁。限界だった。

 加藤(博人)投手コーチがこの回、二度目のマウンドにやってきた。交代だった。

 マウンドを降りる際、大きな拍手が聞こえてきた。東京からプライベートできてくれた相方の姿が見えた。悔しかった。あとひとり、なんで投げられないんだ俺は――。

次のページ 批判に負けない、なにより……