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冷やし中華とはまったく別物! 夏の新風物詩「冷やしラーメン」とは?

現在観測 第40回

●「冷やしラーメン」ならではの強みとは?

 しかも、「冷やしラーメン」は、先述したとおり、比較的最近になって普及し始めたメニューであり、スープが冷たいという性質上、大多数の店舗で、季節限定メニューとして提供される。
 その「冷やし」ならではの特質が、スープが熱い従来型のラーメンと比べ、2つのアドバンテージを生んでいるのだ。

(店名:鯛塩そば灯花) ← 夏季限定メニューの「芳醇冷やし鯛塩そば」。光り輝くガラスの器が夏の涼を演出。うま味豊かな鯛の刺身に載る梅塩の色合いも鮮やか。「冷やしラーメン」の今を体現した、店主渾身の力作だ。

 1つ目が、決まった型が存在しない上に、スープに魚介系素材を多用するため、作り手の創意工夫を活かせる余地が大きいこと。
 つまり、誕生からの歴史が浅いため、決まったスタイルが存在しない。また、スープは、温度を下げれば、鶏、豚などの動物系素材のうま味が減殺されるため、おのずと、煮干し、節などの魚介系素材を駆使せざるを得ない。魚介系素材の種類は多岐にわたり、素材の組合せの自由度が動物系と比べてはるかに高いため、作り手の個性が反映されやすい。
 そして、2つ目が、提供時期が限られ、レギュラーメニューよりも作り手が冒険しやすいこと。
 通年での提供を前提とする、スープが熱いラーメンは、その店の看板メニューであり定番メニューでもある。このため、どうしても、万人受けする手堅い仕様に収まりがちだ。その点、「冷やし」は、定番メニューの厚い庇護の下、食べたい人だけが食べれば良いというスタンスで、期間限定で提供されるため、店主としても気軽に遊び心を発揮できる。
 まさに、この2つのアドバンテージが存在するがゆえに、各店舗で作られる「冷やしラーメン」は、店ごとに千差万別、十人十色の様相を呈することとなる。
 つまり、10軒のラーメン店があれば10種類の味が楽しめる。それが、現在の夏ラーメン事情なのだ。

●夏ラーメンの楽しさをマニアに独占させるな!

 ラーメンマニアの中には、このような「冷やしラーメン」ならではの面白さを熟知し、毎年、夏の到来とともに「冷やしコレクター」と称し、冷やしラーメンを求めて、日本全国を駆けめぐる者も多い。
 考えてみれば、そのような状況になるのも当然だろう。夏に楽しめるラーメンのバリエーションが、その他の季節より格段に多いとなれば、そこにラーメン好きが目をつけないはずがない。
 そんな楽しみを、ラーメンマニアだけに独占させておくのは、あまりにもったいないではないか。
 今年の夏は、皆さんも、まずは、お気に入りのお店の「冷やしラーメン」にチャレンジしてみてはいかがだろうか。必ずや、お馴染みの味とはひと味違う、新たな1杯にめぐり逢えるに違いない。そして、願わくば、店舗を数軒めぐり、各店舗の「冷やしラーメン」を食べ比べてみてほしい。
 気が付けばきっと、夏ラーメンの虜になっているはずだ。

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田中 一明

たなか かずあき

通称「ラーメン官僚」。大学進学のために上京した直後、伝説的名店『土佐っ子らーめん』との劇的な出逢いを果たし、ラーメン食べ歩きに目覚める。以降、現在に至るまでの食べ歩き歴は20年以上、実食杯数は11,000杯以上に及ぶ。直近数年間は、毎年700杯~800杯のラーメンをコンスタントに平らげ、2016年現在、日本でラーメンシーンの「今」を最もよく知る人物として知られる。日本全国に存在する隠れた名店を発掘し、世の中に分かりやすく伝えることを使命とする。メディア出演多数。近著は『ラーメンマップ茨城5(新朝プレス社)』。


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