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岸見一郎・独占インタビュー「アドラー心理学以外に世の中を変える力のある思想はない」

アドラー心理学の第一人者が語る、幸せに生きるために働くことのヒント 第4回

今から17年前、日本初のアドラー心理学の一般書が発売された。じわじわと広まったアドラーの思想は、近年急激にブレイク。果たしてアドラーブームの行く末は? アドラーの考えは日本に何をもたらすのか? 

 「アドラー心理学」という言葉を、最近知ったという人は多いだろう。オーストリアの心理学者・精神科医であるアルフレッド・アドラー(1870-1937)は、海外ではフロイト・ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されるほどメジャーな存在である。平易な言葉で説かれるシンプルな理論は当時から人気があり、現代に至るまで多くの思想家や実業家に影響を与え続けている。
 アドラー関連の一般書が初めて出版されたのは、1999年(『アドラー心理学入門』岸見一郎、KKベストセラーズ)。その後、翻訳本が次々と出版されるが、ブームのきっかけは2013年、『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎・古賀史健、ダイヤモンド社)が大ヒットしたことだ。以後、アドラー関連本が急増し、アドラー心理学の名をメディアでもよく目にするようになった。そんななか、第一人者である岸見氏が新たに『アドラーに学ぶ よく生きるために働くということ』(岸見一郎、KKベストセラーズ)を著した。
 誰もが関わりのある「働く」という問題に、アドラー心理学はどのような答えを出すのか? 「よく生きるために働く」とは、どういう意味なのか?
 働くことを楽しく思えない人、働けないことに悩んでいる人、上司や部下との関係に悩んでいる人。彼らが「よく生きる」ためのヒントを、岸見一郎氏に語ってもらった。

1世紀遅れてきたアドラーブーム

―今でこそ、書店で多数のアドラー関連本を目にすることができますが、1999年、『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)を上梓されたときは類書がほとんどなかったそうですね。今から17年前、どういういきさつでこの本が生まれたのでしょう?

 

 ある日突然、どこで調べてきたのか、KKベストセラーズの編集長が「アドラー心理学の入門書を書いてくれませんか」と電話をかけてこられたのです。その頃私は、アドラーの翻訳を2冊手がけたばかりでした。日本にはまだアドラー心理学の一般書がなく、アドラーの著作の翻訳本はあっても誤訳が多かったので、自分で訳すしかないと考えたのです。
 そうした思いと、偶然にもこのとき、ちょうど3年間務めた精神科医院をやめる直前だったことから、「これから少し時間ができそうだ」と、引き受けることにしました。日本語による研究書もない時代でしたから、アドラーの原書、関連する欧米の研究書を片っ端から読み、必死に執筆しました。全然休めなくて、ふと「(医院の)仕事をやめるから、来月から半年ほど休もう」と思っていたことを思い出しました(笑)。

―それが現在に至るまでコンスタントに版を重ね、25万部というロングセラーとなったのですね。では、ここ2年ほどアドラー心理学がブームになっているのを、第一人者としてどう見られていますか?

 今のアドラーブームは、20、30代の若い人を中心に起きているのだと思います。最近、学生を中心としたデモ活動が盛んに行われましたね。大人の言いなりになっていると大変なことになると気づき始めた若い人が増えてきたのではないでしょうか。

―そういう若者たちに、アドラー心理学が影響を与えていると?

 アドラー心理学は、「どのように生きればいいのか」「幸福とは何か」という普遍的な問いに対して、非常にシンプルで明快な答えを提示します。若者たちに受け入れられている背景には、その片鱗がある気がします。今年から18歳以上に選挙権が与えられたこともあり、ますます若者の意識が変わりつつあります。アドラー心理学は、さらに広く受け入れられるようになるのではないでしょうか。

―アドラーは海外ではフロイト、ユングと並ぶ存在なのに、これまで日本ではあまり知られていませんでした。

 アドラー心理学は非常に新しい思想で、当初から「時代を半世紀先取りしている」と言われていました。日本では、半世紀どころではなく、1世紀遅れて受け入れられつつあります。
 私はプラトン哲学が専門なのですが、紀元前5世紀の書物に描かれている人間の悩みは、今とまったく変わりません。人間の進歩がいかに遅いかがわかります。しかし、今、日本でアドラーの教えが大きな進歩を遂げるのではないか。 
 かつて、宮崎県にある幸島(こうじま)を舞台に「百匹目の猿」という「逸話」がありました。1匹の若い猿が海水で芋を洗い始めると、他の猿もマネをして、島には芋洗いをする猿がどんどん増えていった。芋洗いをする猿が100匹目に達したところで、なぜか島内のすべての猿が芋を洗うようになった。同時に、日本中の海岸でも、芋洗いする猿の群れが出現するようになった……こんな話です。実際はそんな怪現象はなかったのですが、親世代にない習慣が、若い世代の猿に一気に広まった、というところは、これからの日本に重なるような気がします。

―アドラーブームによって、若い世代から日本が変わっていくかもしれないということですね?

 ただ、ある思想が一気に広まるとなると、必ず誤解する人も出てきます。アドラー心理学は、シンプルで実用的なだけに特に誤解されやすい。本当は奥深い思想なのに、「自分の好きなことをすればいいんだ」といった程度の理解をしている人もいます。誤解したまま実践する人が増えることで、アドラー心理学への反感も高まるでしょう。

―ブームのあとには、揺れ戻しがくると予想されるのですね?

 はい。しかし私は、今のところアドラー心理学以外に世の中を変える力のある思想はないと思っています。アドラー心理学は非常にシンプルですが、簡単に答えが出るものではありません。安直な答えだけを求める人は離れていきます。

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