インボイス制度実施でやっぱり混乱と困惑の1ヶ月。〝来年の確定申告は地獄になる〟これだけの理由【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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インボイス制度実施でやっぱり混乱と困惑の1ヶ月。〝来年の確定申告は地獄になる〟これだけの理由【篁五郎】

安藤裕税理士(元自民党衆議院議員)と湖東京至税理士

 

■インボイス導入を決めたのは実務家がいない自民党の税制調査会

 

 制度開始によって起きた混乱の報告はまだ続き、今度は税理士の現場で起きたことが報告がされた。「インボイス登録していない事業者との取引について」から「2割相当額控除の案内」といった事務手続きや説明業務の負担が増えたという。

 さらに「コンビニエンスストアでの支払」「コインパーキングの領収書」「消費税額の記載がない領収書」についても相談がきているという。

 飲食店では、インボイス番号登録のハンコを購入して領収書に押印するケースや、手書きでの対応をしなければならないこと。また、個人タクシーなどを利用すると、インボイス番号記載のレシートが発行できないため、降車時にインボイスが必要かどうか確認し、レシートにハンコを押すという事例も起きているそうだ。

 税理士からは「来年の確定申告では、もっと混乱が起きる」と断言。初めて消費税を納付する事業者の消費税申告書は、手書きでは対応できない点を挙げた。また税理士の中でもインボイスに対する認識や理解は異なっていたり、税務署でも職員によって言っていることが違っていたり変わったりするという。それなのに納付期限は変わらないという点が混乱するもとになると考えられている。

 インボイスによる悪影響はこれだけに留まらない。茨城県で小規模農業をしていた方は、インボイスによって廃業を決めた。

「『インボイスに登録していない場合、関係を継続できない』という話でした。そこからインボイスを調べてみたら、移行措置はあるものの、最終的には『売上の10%』がいずれ納税対象になると。そうなると、納税額が利益を上回ってしまう。廃業以外の選択肢しかありませんでした」という。

 インボイスに登録すると、赤字でも納税の義務が生じる。消費税は赤字でも課税される税金である。それは利益に課税されるのではなく、課税売上から課税仕入れを控除した額を納税する仕組みだ。仕入れをしないと生産できないので、赤字でも納付することで課税されるということはあり得るという。

 他にも中国から日本へやってきて飲食店を経営している方は、常連さんから「昨日の飲食代のインボイスをくれないか」と言われ、「うちはインボイス出せません」と返すと「なら10%値引きしろ」と言われたという。どう返事していいのかわからないので「次回10%分値引きする」と答えてしまったそうだ。毎回説明するのも負担なので登録してしまったそうだ。

 

■経営側の負担も尋常ではないことが報告されている

 

 経営側にも負担は生じる。特に従業員10名以下の零細企業は、インボイスの確認作業が加わり、本業にも悪影響が出ているそうだ。経理業務を税理士事務所へ依頼している企業は、事務負担増大による値上げが起きている。

 中規模事業者だと、インボイス番号をOCR機能で読み取るような設備への投資やシステム導入の費⽤負担増が懸念されている。経理オペレーションをゼロベースで⾒直す企業も出てきており、時間とリソースの負担増に繋がっている。さらに経理職の退職も出てきており、少ない人材で回していたのが、一人ひとりの業務量が増大してしまったのが現状だ。

 ここまで見ているとインボイスを導入して一ヶ月経つが、起きているのは混乱と負担ばかりである。各官庁から来ている官僚もインボイスに関するQ&Aを膨大な量を作る負担もあれば、少ない人員でインボイスに関する対応をしなくてはならない。官僚も疲弊しているというのだから被害者である。

 では、いったい誰がこんな制度を導入したのか、だ。

 日本の税制は年末に与党・自民党の税制調査会で議論して決まるのだが、欧州で消費税にあたる付加価値税が複数税率ゆえにインボイスを導入しているのを知った政治家が導入したのである。元自民党国会議員の安藤氏は、党の税制調査会についてこんな暴露をした。

「党の税制調査会には実務をやっている税理士がいない」

「税の仕組みを知らない議員が決めている」

 つまり現場を知らない議員が、机上の空論だけで決めているのが自民党の税制調査会だという。これでは、機能しない制度になって当然だ。最後に会見にオブザーバーとして参加した湖東税理士からも重大な欠陥が指摘された。

 日本の消費税は帳簿方式(事業者が自ら記帳した帳簿にもとづいて仕入税額控除を算出して納付する消費税の金額を計算するという方法)で納税されるが、他国ではインボイス方式という制度で納付をしている。インボイス方式だと簡易課税制度が使えず明確に納税しないとならない。

 要するにインボイスを導入するなら、救済措置としての簡易課税制度もあり得ないということだ。つまり帳簿方式のままインボイスを導入してしまったせいで、歪な税制になってしまい、今の混乱が起きているという。

 それならば帳簿方式をやめて、インボイス制度にしたらいいという意見も出てきそうだが、自民党の税調が反対するので帳簿方式の廃止は不可能だという。

 ここまで歪な形になると多くの人々が疲弊するのは明らか。もはや中止したほうが良いと考える。あるいは消費税を廃止するか、複数税率を止めるかだ。支持率が急落している岸田首相は「消費税の減税は考えたこともない」と国会で答弁したが、国民の声に聞く耳をもたない政治家ゆえにこの混乱は収まりそうもない。

 

文:篁五郎

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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