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100年前から唱えられていたヨーグルト「不老長寿論」

20世紀初頭のノーベル賞学者が乳酸菌の効能を発見

ノーベル賞学者メチニコフが「ヨーグルトを食べれば長寿になる」と提唱してから1世紀。現代ではその説が科学的な検証のもと、再評価されつつある。肥満や病気の予防まで効果が期待される、善玉菌の力を解説する。

 
イリヤ・メチニコフ
1845〜1916年、ロシアの微生物学者。1908年、ノーベル生理学・医学賞を受賞。1907年、著作『長寿の研究』において、ヨーグルトに含まれる乳酸菌の効用について論じている。
 
 
 
ヨーグルトの歴史は、紀元前数千年前から!?

乳酸菌やビフィズス菌が腸内環境にいいのはもはや常識だが、この説の起源は、実は100年以上も前にさかのぼる。ロシアのノーベル賞学者イリヤ・メチニコフが「ロシア南西部のコーカサス地方に長寿の人が多いのは、ヨーグルトを毎日食べているからだ。ヨーグルトは長寿に有効である」と、いち早く提唱していた。

 

彼は、腸内に悪玉菌がいて、自家中毒や動脈硬化などの老化現象を引き起こしていることを動物実験で確認し、さらに悪玉菌はアルカリ性の環境を好み、弱酸性の環境では生息できないことも突き止めた。1907年に著書で「乳酸菌は腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を防いで老化を抑制する」と発表したが、当時は「乳酸菌は、人の腸内では生きることができない」と考えられていたため、否定的な反応が多かったという。

 

ところが1912年、大隈重信がメチニコフの著書を『不老長寿論』として翻訳出版すると、日本では広く知られることになる。昔から日本酒、味噌、醤油、漬け物などの発酵食品が作られ、発酵技術が高度に発達していたこともあり、体によい細菌を探し出して健康に役立てる研究が盛んになったのだ。

 

その結果、まもなく乳酸菌整腸薬ビオフェルミン、世界初の乳酸菌飲料カルピスが開発される。さらに、代田稔博士が乳酸菌の一種であるラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(ヤクルト菌)を発見し、シロタ株を使った乳酸菌飲料ヤクルトが誕生した。

 

「シロタ株の大きな特徴は、世界で初めて生きたまま腸に届く乳酸菌を食品にしたということです」と、ヨーグルト健康法を提唱している辨野義己さん(腸内環境学、理化学研究所イノベーション推進センター特別招聘研究員)は言う。

 

「生きて腸まで届き、腸内環境を整えて、体によい働きをする微生物をプロバイオティクスと呼びますが、その言葉は1989年に、イギリスの微生物学者ロイ・フラーが定義しました」

 

今ではそういう微生物を含む食品も含めてプロバイオティクスと呼び、その代表格はヨーグルトだ。歴史は古く、紀元前数千年前から中近東やヨーロッパで食べられていたという説がある。

 

日本でも飛鳥時代にヨーグルトの原型のような乳製品があったと考えられているが、広く一般の人々に食べられるようになったのは、昭和の半ば以降。1970年に大阪万博のブルガリア館で本場のプレーンヨーグルトが紹介されたことをきっかけに、翌年に初めてプレーンヨーグルトが商品化される。1978年には、ビフィズス菌入りのヨーグルトも発売された。

 

「現在日本で発売されているヨーグルトや乳酸菌飲料は、7500種類以上もあるそうです。腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラのバランスをよくするためには、できるだけ毎日摂りたいですが、効率よく腸内環境を改善するためには知識も必要です」と辨野さん。

 

そもそも乳酸菌とビフィズス菌は、どう違うのだろう。辨野さんはこう説明する。

 

「実は乳酸菌もビフィズス菌も一般名称であり、生物学的には存在しません。乳酸菌は、糖を分解して50%以上の乳酸を産生する真正細菌(バクテリア)の総称、ビフィズス菌は、糖を分解して乳酸とそれ以上の酢酸を産生する真正細菌の総称です。どちらも善玉菌ですが、人間の腸内に主に棲んでいるのは、酸素があると生育できないビフィズス菌で、その数は乳酸菌の100〜1000倍にもなります」

 

乳酸菌やビフィズス菌入りのヨーグルトは、前述のプロバイオティクスだ。善玉菌が生きたまま腸に届き、腸内環境を改善してくれる。ほかに納豆などの発酵食品の一部も、広い意味ではプロバイオティクスに含まれる。とは言っても、生きている微生物は胃酸や十二指腸(小腸)の分泌液で死んでしまうものもあり、そのうえ腸内にそのまま定着する訳ではない。では、なぜ生きている微生物を摂ると腸にいいのか。

 

「乳酸菌やビフィズス菌が腸内で産生する乳酸、酢酸などが、腸壁に刺激を与え、ぜん動運動を活発にするので、便秘が解消されて善玉菌が優勢になるからです。さらに乳酸や酢酸によって腸内が酸性に傾く結果、アルカリ性を好む悪玉菌を抑制する効果もあります。生きた微生物は、腸の中に定着しなくても何日か生存して、常在する乳酸菌やビフィズス菌の菌数を増やす働きをします。だからその分、長く腸内環境を整えてくれるのです」

 

プロバイオティクスには、免疫機能を高めたり、ビタミン(B2群、K)を合成したりする働きもあり、その効果は整腸作用だけではなく、花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患の抑制、抗がん作用、血中コレステロールの低下、血圧降下、内臓脂肪の減少、ピロリ菌の抑制など多岐にわたることが知られている。薬に頼らずに末永く健康を維持するためには、今後も注目すべき食品だ。

 

「もう一つ、プロバイオティクスの働きをもっと高めるために忘れてはならないのが、プレバイオティクスの存在です。1995年にイギリスの微生物学者グレン・ギブソン教授が提唱し、腸内の善玉菌だけに働きかけ、増殖を促進し活性を高めて体の役に立つ物質と定義しました。ビフィズス菌を摂るとき、プレバイオティクスとして食物繊維やエサになるオリゴ糖を一緒に食べるといいということです」

 

食物繊維とは、胃や十二指腸で消化することができない食品成分のこと。人間は、食物繊維を分解する消化酵素を持たないので、そのほとんどが便となって体外に排出される。腸内細菌によって発酵し、ビフィズス菌を増やして腸内環境を改善する効果もある。

 

また、オリゴ糖も小腸で消化・吸収されないため、大腸に届いてビフィズス菌のエサになり、ビフィズス菌を活性化する。ビフィズス菌は、オリゴ糖を食べると乳酸や酢酸を産生するので、腸内環境がよりよくなるという訳だ。

 

ちなみに辨野さん自身も、オリゴ糖と食物繊維たっぷりの特製ヨーグルトドリンクを毎朝飲んでいる。

監修:辨野義己さん
理化学研究所イノベーションセンター推進センター特別招聘研究員
1948年。大阪府生まれ。農学博士。専門は腸内環境学、微生物分類学。DNA解析により、新たな腸内細菌を発見し続けている。『免疫力は腸で決まる』『腸内フローラが病気を防ぐ』など著書多数。

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