前回、情に厚く、人心掌握に長けた、“人たらし”としての田中氏の一面を紹介しましたが、一方で極めて合理的な考え方をするのもまた、田中氏の特徴です。側近たちに「挨拶不要、用件は手短に」という対応を求めるのはもちろんのこと、陳情客や政財界の要人たちと話すときも長話をすることはほとんどなく、基本的には3分、長くても5分程度で会話を終えることが大半だったといいます。
 田中氏の元秘書だった早坂茂三氏は、このような逸話を伝えています。田中氏が若い政治家から相談を受け、いつもの調子で手短に会話を済ませた後、早坂氏が「もう少し、じっくり聞いてやればいいじゃないですか」と尋ねたとき、田中氏は次のように答えました。
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 どんな話でも、ポイントは結局一つだ。そこを見抜ければ物事は三分あれば片づく。あとはムダ話だ。忙しいオレがムダ話をしていられるか。
(向谷匡史『人は理では動かず情で動く』より)
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  即断即決を徹底し、「できることはやる、できないことはやらない」という姿勢で物事にあたる田中氏の話は、愛想がなく、ときにストレートすぎてトゲトゲしさを醸すものでもありました。しかし、誰にでもわかりやすく、説得力があるものだったので、相談やお願いにきた相手はたとえ要望が叶えられなかったとしても、納得して帰ることがほとんどだったそうです。
 田中氏のレベルで合理的に即断即決を実践するのは難しいかもしれませんが、物事をシンプルに捉えて、ひとつの本質を見極めようとする意識は、常に持っていたいものです。