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何かのために生きるとき、人は幸せになれる

―アドラー心理学とその弟子フランクルの心理学の教え―

「保育園落ちた」ブログに見る、自己選択の心理学

 もう一点、アドラーとフランクルに共通しているのは、人間が真に幸福になるために必要なのは、「自分を超えた何か」のために我を忘れて没頭して生きる。そうすることで人間ははじめて、真に、心満たされた人生を送ることができると考えた点です。

 

 つまり、人間は、自分自身のために生きているときは幸福にはなれない。逆に、自分のために生きるのをやめて、自分以外の「何か」のために我を忘れて生きるときに、真の幸福は自ずと手に入るのです。

 

 アドラーは、人間の真の幸福に必要なのは、自分が属する共同体の一員として、役に立つこと、意味あることを行なうことだ、と考えました(共同体感覚)。

 

自分が所属している集団や社会において、自分にしかできない役割を果すことで、人ははじめて心満たされた人生を生きることができるのだと考えたのです。

 

 少し前に、政府が全然本気で少子化対策をしないことを危惧したある人が、ネットでぽんと「保育園落ちた日本死ね」と書いたことで、世間が騒然として政府が動き始めたことがありました。こうしたちょっとしたことが世の中を変えていくわけです。この方は、社会の一員として、意味あることをおこなったと感じることができていると思います。

 

 アドラーは、最終的には、人類社会全体に対して、人類の一メンバーとして、意味あることを自分はしていると実感できることをしているときに、人間は真に幸福になれるのだと考えています。

 

 確かにそうだと思うのです。自分の置かれた会社や部署において、果たすべき役割をし、真に役に立っているという実感を得ないと、人は本当の意味で幸福になることはできないと思います。自分のことだけ気にしていては、本当の意味で幸福になることはできないのです。

 

 自分が集団や組織の一人のメンバーとして、果たすべき役割を果たしえているという実感――。これをアドラーは「共同体感覚」と言っています。

 

 フランクルは、自分の人生に与えられた意味や使命を果たそうと、我を忘れて没頭しているときに、人間は真に幸福になることができるのだと言っています。

 自分のことなどを忘れ去り、自分の人生に与えられた使命・天命などを全うするために日々を生きているときに、人間の心は初めて深いところで満たされのです。

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諸富 祥彦

もろとみ よしひこ

明治大学文学部教授

1962年、福岡生まれ。筑波大学、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会理事、臨床心理士。著書に『知の教科書 フランクル』(講談社選書メチエ)、『ビクトール・フランクル 絶望の果てに光がある』(小社刊)、『フランクル「夜と霧」』(NHK 100分de名著)などがある。HP:http://morotomi.net


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