インバウンド急増の背景を知る

 45年ぶりにインバウンド(訪日外国人)数がアウトバウンド(出国日本人)数を抜くなど、日本の観光市場が急激に変化しています。これには星野氏も、「観光で外貨を獲得できる時代。北海道にある星野リゾート トマムは冬期のお客様の半数がインバウンドでした。星のや京都は近年、4割近くのインバウンドをキープしています。成長セグメントとしてインバウンドをみていくことが大事です」と話します。

 しかし気をつけたいこととして、まずは地域格差の問題を指摘します。
「インバウンドは猛烈な地域格差があります。例えば自社でいうと、青森県にある星野リゾート界津軽は98%が国内のお客様です。高知の星野リゾート ウトコも同様。インバウンドは東京、京都、大阪、北海道で65%を占めていて、全国のトップ10の県で80%以上。つまり残りの20%を地方の37県で分け合っている状況です」。

 地方に旅行者を呼ぶ工夫をもっと続けていく必要があります。各宿、各エリアが独自の魅力を磨きながら発信し、集客していかなければインバウンドの波にのることができないでしょう。
 それからもうひとつの注意点として、
「インバウンドが急激に増えている理由には、円安の影響と安全性ということがあげられます。ギリシアやエジプトなどでは国際情勢が不安定な為、世界の旅行者が安全な国・日本に行ってみようという流れになっているのも事実です。日本だから行きたい、日本へまた行きたいと思ってもらうために、今こそ観光の真の実力をつけることが大切です」。
 インバウンドを一時のブームに終らせないために大切なこと。星野氏はこう考えます。
「真の実力をつけるためには、旅館側が設備投資をもっと活発に行っていく必要があると感じます。多くの旅館ではバブル期のままの施設や設備を修理しながらどうにかこうにか使っている状況にあります。快適で安全な滞在空間となるように設備投資するためには収益が必要です。そのためにも、長年私が提案しているのは“休日の分散化と需要の平準化”です。それから加えていうと、国内旅行者をもっと増やすために、例えば若者割引などを実施して若者に旅をたくさんしてもらう工夫も必要です。需要が大きい国内旅行者を増やしていくことが、インバウンドを増やすこと以上に大切であることを忘れてはいけないと思っています」。

 休日の分散化とは“大型連休の地域別取得”に代表されるもので、星野氏が2004年から観光庁などで提案しているものです。星野氏の過去のメディア記事をさかのぼっていくと気づくのですが、どんな時も必ず飛び出すのが、この“休日分散化による需要の平準化”です。その背景には、「日本の観光の“格”をあげたい」との思いがあると言います。

 そのためには一年を通して、平均的にお客様が施設に滞在してもらえる環境を整える必要があります。その中で旅館同士が個性やアイデアをぶつけあうなどして適切な競争が行われると、日本の観光は、日本の旅館は、国内のお客様にもっと評価されていくと思います。時々辛い思いをしながらもテレビなどに出演させていただくのは、“休日分散化による需要の平準化”の考えを多くの方々に知っていただきたいからです」と星野氏は語っています。

 混み合う連休にわざわざ出かけて、せっかくの旅が不快な思い出にかわってしまうのは避けたいものです。旅館等の受け入れ側も、余裕のある接客を提供したいと願っているはずです。

 最後に「星のや東京」が目指すインバウンドについてです。
 2016年7月20日開業予定の「星のや東京」の詳細は前回ブログでご紹介しました。プレス発表会では記者から「どれくらいのインバウンド比率を予定しているか」という質問が多くありました。

「全国5施設ある『星のや』全体でインバウンド営業を行っていますが、比率やターゲットなどは特に考えていません。東京に日本旅館をつくることで、快適で機能的でリラックスできる宿泊空間を、世界のみなさんに知っていただきたいと思っています。そして世界を旅する滞在拠点のカテゴリーのひとつに日本旅館を入れて欲しい。日本旅館のパターンを世界の都市につくっていくことが今後の目標です」。