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「過去を変えても未来は幸せにならない」~「日日是好日」の教え~

「箔がつく」「イメージがいい」など様々な理由で、人は経歴詐称に及んでしまう。あなたも過去を変えたいと思ったことはないだろうか。

ラグビー日本代表・五郎丸選手が受けた一喝

 最近「経歴詐称」という言葉をよく耳にします 。詐称せざるをえなかった理由もあったのでしょう。そして、過去を変えれば、未来を変えられると考えていたのかもしれません。

 昨年のワールドカップで、日本に大きな旋風を巻き起こしたラグビー日本代表。その中心選手だった五郎丸歩選手を支えているものは、「今を変えなければ、未来は変わらない」という言葉である、という記事が新聞にありました。

 前々回大会の時、合宿には参加していたものメンバー入りはかなわなかった五郎丸選手は、ある日のミーティングでジョン・カーワン前HCに「過去は変えられるか?」と問われ、「変えられません」と答えた。続いて「未来は変えられるか?」と聞かれ、今度は「変えられます」と答える。するとカーワン前HCは次のように云います。「違う。お前が変えないといけないのは、今だ。今を変えなければ、未来は変えられない」と。

 過去や未来ではなく、今を見なければならないのは、何もスポーツ選手だけではありません。お釈迦さまも「過ぎ去ったことをいつまでも悩んだり、未だ来ていない未来を心配するなら、人間は枯れ草のようになるだろう」と示されます。それでも私たちは、どうしても過去に囚われ、未来を憂いてしまうのです。

雲門和尚の問い

 中国に雲門和尚という高僧がおられました。ある日修行僧に云います。「十五日已前(いぜん)は汝に問わず、十五日已後(いご)、一句を道(い)いもち来たれ」と。十五日という具体的な数字が出ていますが、ここでは特に問題にせず、「過去」を意味しています。したがって訳するとしたら、「今日までの過去はあなたに問わない。今日以後について自分の思うところを、一つの言葉にして持って来なさい」と修行僧に問いかけます。

 みなさんも、ぜひ考えてみてください。禅の世界は初念を大切にします。考えついた答えから連想させて、色々な思惑をプラスしてスマートな答えにしようと思ってはいけないのです。

 素直に問題を自分の心に問いかけて、疑問を起こしてみる。そして、その疑問と真に向き合った時に、初めて出てきた答えがあなたの答えなのです。そして、自分の心から直に出てきた答えであれば、ここには正解も不正解もないのです。

 誰も答えない修行僧に変わって雲門和尚は云われます。「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」と。

天龍寺元管長の・関牧翁老師が揮毫した「日日是好日」の書。

  簡単に訳するなら、「毎日は幸せにあふれた連続」となるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。大事な人が亡くなったり、かわいがっていたペットが死んでしまったり、仕事で失敗したり、家族や恋人とケンカしたり……。考えてみると毎日が幸せどころか、辛いことの方が多いのが人生と云えます。

 では、「未来」を幸せにするためにはどうしたらいいか。それは、過ぎ去ってどうしようもない「過去」を偽証することでもなく、未だ来ていない未来を心配することでもなく、「即今目前」、つまりまさに今、目の前のことを、「人生を好日にするチャンス」にするしかないのです。

 わたしたちの日常生活の中にある、目の前の辛いことや悲しいことに意味と価値を見出し、それを「未来を幸せにするためのチャンス」とできたなら、今日という一日は「好日」と呼ぶにふさわしいものになるはずです。

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細川 晋輔

ほそかわ しんすけ

龍雲寺

住職

ほそかわ・しんすけ。1979年、東京世田谷生まれ。元・臨済宗妙心寺派宗務総長、前・花園大学学長、細川景一氏の次男。元臨済宗妙心寺派教学部長で、『般若心経入門』(詳伝社)で第1次仏教書ブームのきっかけをつくった松原泰道の孫。2002年佛教大学人文学部仏教学科卒業後、京都にある妙心寺専門道場にて九年間禅修行。現在、東京都世田谷区にある臨済宗妙心寺派・龍雲寺住職。花園大学大学院文学研究科仏教学専攻修士課程修了。妙心寺派宗議会議員。妙心寺派布教師。


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