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多チャンネル化する就活 ~今、どのように「就職」をすべきか?~

インタビュー/児美川孝一郎氏(『夢があふれる社会に希望はあるか』著者)

――「3年以内の離職」が、「若者の働く意欲の喪失」であったり「忍耐力のなさ」を象徴しているという論調もありますが……

 いやいや、やる気の問題ではないでしょう(笑)! 経済環境や職場環境が変わったことが、若者の離職・転職を促しているというだけですよね。離職率が高まったからといって、辞めた人間の働く意欲が低いわけではない。逆に、今の若者はそんなに高望みはせずに堅実な就職をする者も少なくないのですから、その人たちが会社を辞めるのだとしたらそれは、環境要因の方が大きいのではないでしょうか。
 「何年以内」という基準は人によって違うと思いますし、次の職場が見つかっていればいつ辞めてもいいんじゃないでしょうか。それに、「3年以内の離職」を良しとして受け入れていかないと、社会は回らなくなりますよね。なんせ、3人に一人はそうなんですから。
 昔みたいに日本の企業内教育が手厚ければ、「3年」というのは確かな基準となったかもしれないですが、今は色んな企業があって、企業によって「3年」が持つ意味は違います。3年間新入社員をしっかりと教育してくれる企業もあれば、3年間ほったらかしにされる企業もあるわけで、一概には言えないと思います。

――多チャンネル化する現代日本の就活、学生はどう取り組めばいいのでしょうか?

 僕は、日本の就活生は、世界一恵まれていると思っています。どんな仕事ができるか分からないのに採用してくれる国なんて、他にはありませんから。その良さをとことん利用して就活すればいいんじゃないでしょうか。
 『夢があふれる社会に希望はあるか』という本の中でも書きましたが、例えば、消去法で就職先を決めてもいいと思います。転職しやすいんですから、先ほどの話ではないですが最悪3年を待たずに会社を変えればいいんです。「いや、そんな安易に仕事を決めちゃダメでしょ!」という人もいますが、一つの仕事に決め打ちして、結果志望の職に就いている人なんて一握りしかいません。それに日本はいわば「就社」社会で、一つの仕事をずっと続けるわけではなく、会社の中で幾度かのジョブ・ローテーションがあるのが基本です。だから、「やりたいこと」を持って就職した人ほど、ギャップに苦しむ傾向だってあるわけです。逆に、まったりと就活をして、なんとなく就職をした人にとっては、ジョブ・ローテーションがある環境は、自分の適性を見極める時間ができて、悪くないと言えるかもしれません。
 そもそも、就活において「自分の長所を見つけろ」「業界分析をしろ」なんて言われ出したのは、ここ20年くらいのこと。今の就活生の親世代は、もっといい加減な就活をしていたんです(笑)。でもそれが、良い加減だったんです。この20年ほどの間に、今のような「就活」というスタイルが確立されて、みんなそれに合わせてやろうとする雰囲気になってしまいましたが、今ようやくその就活も多チャンネル化しはじめました。一部の「意識高い系」の学生に合わせて同じようにガツガツ就活をする必要は全くありません。「やりたいこと」が何もなくて困っている人ほど、日本の就活、就労システムは向いているとも言えるのです。焦らずマイペースに就活をすればいいんじゃないでしょうか。

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児美川 孝一郎

こみかわ こういちろう

1963年東京都の生まれ。東京大学教育学部、同大学院教育学研究科博士課程を経て、96年より法政大学に勤務。2003年よりキャリアデザイン学部助教授、07年より同教授(現職)。専攻は、教育学(青年期教育,キャリア教育)。日本教育学会理事、日本キャリアデザイン学会副会長。主な著書に『若者とアイデンティティ』(法政大学出版局)、『「親活」の非ススメ』(徳間書店)、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、『まず教育論から変えよう』(太郎次郎社エディタス)等がある。


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  • 児美川 孝一郎
  • 2016.04.09