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Scene.5 本屋はいつも危険な香り。

高円寺文庫センター物語⑤

「事務所で寝るからさ、起きなかったら30分後に声かけて」

「また今夜も夜中のバイトなんすか?」

「うん、実は争議が終わったんだ。夜中のバイトも、あと二回で終わるよ」

「だと店長、文庫センターを辞めて書泉に戻ると?」

「どうしようかねぇ、自分で作った組合だからな・・・」

「文庫センターも店長が作ったんじゃないっすか!」

16年に及んだ労働争議が終わった。

1976年に神保町の書泉で労働組合を作ってから、書泉経営による組合潰しの第一次争議。第二次争議は暴力団を使ってボクらを職場からたたき出して泥沼化した。

争議の長期化にボクも組合専従から、闘争生活資金稼ぎの本屋バイトに入ったのが文庫センターでの店長への道となっていった。

出版社や本屋の労働組合と一緒に、書泉に解雇撤回の抗議行動に行ったり、裁判闘争を闘ったりという争議生活と本屋でのバイトに週二度ほどの夜中のバイトと三重生活を続けてきての和解による勝利だった。

右翼暴力団による暴力や嫌がらせ、神田署の度々の介入にも屈せずに戦い抜いてきた組合の仲間たちとの絆は固い。

「簡単な話じゃないからな、ちょっと寝かせてよ。今夜も終電で帰って、寝るのは三時だぜ」

「店長! 四十肩に重か新聞の梱包上げるのもつらかね、あと15分寝られるっちゃ」

 

「内山くん、九州は大変なことになったな。」

「雲仙普賢岳な、驚いたばい! 外国の火山学者も二人が亡くなったって言ってたけんが」

「43名が亡くなったんですって!」

「あ、シャキさん。聞いていたの? あれ、今日は村上春樹!」

「文庫になったら読んでもいいかなって、思っていたから『ノルウェーの森』。

小説で頭を休めないと、あちこち電話するのも東京03とか大阪06とか付いて面倒で。」

「そっかそっか、うちは都内程度だから03を覚えておけばいいからまだ助かる。というか、そのタイトルは気に入らないよなぁ」

「ビートルズのパクリでしょ、新文化の連載コラムにも書いたって言っていましたもんね」

「最近多いじゃない、一般ピープルは騙せてもロックファンは騙せんよな。内山くん!」

「ばってん、業界紙のコラムじゃ影響力なかもんね」

「ところで、そこにあるのはバットですか?」

「大正堂さんのミリオタ仲間のバイトに、買って来て貰ったドイツ軍の小銃ですって。バカでしょ、店長!」

「あ、りえさんも店長バカだと思う?!」

「だって家猫を守るために、庭に侵入した野良猫を2階の窓から脅かすんですって。BB弾なんかで逃げないでしょ(笑)」

「帰りがヤバか! 9時のニュース『新宿駅でオモチャの小銃を持った不審者を逮捕。39歳の男は高円寺文庫センターに勤務しての帰りというが背景をなお調査中』とかね(笑)」

「ケケケのケ~だ、わかってくれるのはミリタリー仲間だけか!」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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