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【現地レポート】新型コロナウイルスはなぜ中国でこれほどまで広まったのか?

ウイルスを巡る中国の現状と感染拡大の原因、そして今後の懸念

■豊かで危険な中国の食文化は変わるのか?

 現状において新型コロナウイルスの自然宿主は完全には特定されていない。コウモリからセンザンコウを介して人に感染った可能性が指摘されており、SARSの例をみれば少なくともコウモリ由来であろうと考えられるが、これとて一つの「仮説」である。断定には今後のさらなる研究が必要だ。
 ただ、確実なのは、中国の豊かすぎる食文化が事態の引き金になったこと。野生動物は食材としてだけでなく中国医学における生薬としての需要もあり、およそヒト以外のあらゆる生物は何かしらの形で中国人の口に入ると言ってもいい。
 現在問題となっているのは新型コロナウイルスだが、中国には他にもさまざまな伝染病の原因となる菌やウイルスの自然宿主となる動物がいる。今回の事態を乗り切ったとしても、野生動物食いを止めない限りは、再び違う形でパンデミックが起こる可能性は否定できない。

 そのことは政府も理解しており、このたび中国ではあらゆる違法な野生動物の取引が禁止され、地域によっては全面的な野生動物の食用禁止条例までもが出されようとしている。であれば今後は大丈夫かというと、どうも怪しい
 何しろこのお触れが出たとたん、中国ネット界隈は「野生動物ってどこまでが野生なんだ?」「カエルが食えなくなる!」「ザリガニは大丈夫か!?」といった感じで大騒ぎ。特にカエルについては、政府の方針に逆らうかのごとく中国カエル類養殖専門委員会が「野生動物の養殖は人類祖先の偉大な壮挙である」という声明を発表した。しかし、それが当局の逆鱗に触れて委員会が処分されてしまったものだから、SNSにはこれが最後のカエル鍋だ、などと写真をアップする人が続出した。
 後にカエルなどの水生動物は対象ではないと分かり、人々は安堵したものの中国人の「食」に対する執着をよく表すエピソードといえよう。おそらくは新型肺炎が落ち着いた頃、どれほど政府に止められようがヤミ市場ではこっそり野生動物の取引が続くものと思われる
 

■発生初期、感染拡大時に専門家の声をどう活かすか

疫学の専門家である鐘南山医師をモチーフにした武漢応援イラスト(※「微博」より)

 感染発生を初期段階で抑え込めなかった理由としては、たびたび日本のメディアで指摘されていることではあるが、医療関係者の警鐘が当局によって抑え込まれたという点がある。
 いつの段階で現場から上に報告が成され、それに対してどのような対処が行われたかについて、状況証拠や間接証拠から分析はできるのだが、最終的には闇の中。ソ連崩壊時に秘密文書が流出してさまざまな事実が明らかになったが、同様のことが起きない限り、確たることは言えない。中国とはソ連の失敗を学んで今の繁栄を手に入れた国であり、言葉通りどんな手を尽くしてでもソ連の二の舞は避けるに違いない。 

 ただ中国メディアも認めているように、昨年12月の段階で原因不明の肺炎に対する警告を発する者がいた。当局も1月頭には把握していたが、それを非公表とするように文書で指示していたとされる。このことが対応の遅れを招いたことに疑いはなく、中国もそのことを問題として捉えている。
 2003年のSARS流行時に活躍し、そしていま80代という高齢でありながら湖北省で陣頭指揮を執る鐘南山氏は、中国でいま最も人々の尊敬と信頼を集めている疫学の専門家だが、同氏は今後中国が同じ惨事を招かないための提言を行った。いわく、アメリカの疾病対策センター(CDC)のように中国国内の専門機関がいち早く情報を発信できるようにすべきであるとのことだが、おそらくその意見は何かしらの形で反映されるだろう。
 ただ、何事も「知らしむべからず」というこの国の基本的な姿勢まで変わるとは考えにくい。伝染病に関してはもしかすると以後、迅速な情報の伝達が行われるかもしれないが、隠蔽による事態の悪化というリスクは、今後もさまざまな面でこの国に存在し続けるだろう
 

■中国での感染拡大原因の一つは中国医学への信仰?

 もうひとつ、感染が広がった中国ならではの原因としては、人々の間に根ざした中国医学への信仰も大きい。医学体系として確立されたものであり、信仰という言葉を使うのは差し支えがあるかもしれないが、外国人の目からすると中国人の伝統医学への思いはほとんど宗教的といってもよいほどに不可解だ。
 中国人は一般に、病気になってからでは遅く、病にかかる前に予防すべきという考え方をする。中国医学はそのような思想に基づいて養生の重要性を説く。中国人の中には西洋医学を毛嫌いする人も少なくなく、できるだけ中医薬(日本でいう漢方薬)で治そうとするし、よほどギリギリになるまで病院に行こうとしない。
 新型肺炎の感染拡大が明るみになる前に、おそらく武漢では新型コロナウイルスに感染しながら医者にかからず、中医薬と気合いで耐えた人が大勢いたはずだ。それらの患者が症状を覚えた時に雪崩のごとく病院を訪れていたら、現地の衛生機関が事態の深刻さを察知し、より切実な報告が上げられたかもしれない。それによって当局の判断も今と違うものになっていた…かどうかは分からないが。
 


現在、外出制限によってスーパーへの買い物は主に男性の仕事になっている(※「微博」より)

 同じ過ちを繰り返さないためには、原因をただすことが欠かせない。しかし、中国においてはそれを徹底的にやってしまうとお上の批判に繋がるため、事実の究明とは程遠い結論が導きだされることがしばしばある。現在、世界中が大混乱に陥っている時に不安を煽るようなことは言いたくないが、中国は鳥インフルエンザなど、もしウイルス変異が起きて人から人への感染が始まったら新型肺炎どころの騒ぎではない伝染病がしばしば発生する国である。
 今回のことを教訓に世界第二位となった大国である中国が、その地位に恥じない衛生システムを備えることを望むばかりだ。
 

 

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