「年金だけでは、老後の生活資金が2,000万円不足する!」「老後に備え、若い頃からの資産形成による”自助”を勧める」ーー。昨年発表された金融庁の報告書に、国民の多くが不安を抱いた。「今のうちに投資を」と考えている読者に、「GPIFの年金政策ミスによって、長期にわたる株価低迷が始まります。アベノミクスを支えた年金運用の後遺症。その時期は、早ければ東京五輪後です」と語るのは、現況に危機感を抱き、警鐘を鳴らす元野村投信ファンドマネージャー・近藤駿介氏だ。「202X 金融資産消滅」の真実と「今すべきこと」を語ります。(『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)より引用)

 

◼️販売会社によって流される「投資の常識」 

 金融商品販売会社からは投資情報と共に「投資の常識」が流されています。 この記事を読んでくださっている方々の間にも、「若いうちはリスクを取れる」「分散投資が重要」「資産形成にはドルコスト平均法」といった多くの「投資の常識」が浸透しているのではないかと思います。 

  しかし、現在「投資の常識」として当たり前に受け入れられているものが、本当に「投資の常識」なのかは定かではありません。金融商品販売会社から流される「投資の常識」が「投資の常識」として定着できたのは、金融商品販売会社に都合がいいその「投資の常識」を、誰も検証してこなかったからでもあります。

  現在「投資の常識」といわれているものの多くは、1990年のバブル崩壊後に今のような地位に格上げされてきたものです。その過程は、1990年のバブル崩壊によって大きく変わった株式市場の中で証券会社がどのように生き抜いていくかを模索した苦悩の歴史でもあります。

 バブル崩壊後の証券業界がやらなければならなかったのは新しい顧客を獲得することでした。バブル崩壊によってそれまでの顧客が大きな傷を負ってしまったからです。しかし、 そのためには 80年代までとは違ったロジックが必要でした。新しいロジックを模索していた証券会社が最初に目を付けたのは「家計の金融資産」です。

 1990年の日本の個人金融資産残高は924・6兆円でした。そしてその構成は「現金・預金」が 53・9%、「株式」が9・0%、「投信」が4・2%と、「現金・預金」に偏重していていました。これに対して米国の個人金融資産構成は「株式など」が 50%を超え、 「現金・預金」は 20%に満たないものでした。日本の金融資産構成が「貯蓄偏重」であったのに対して、米国の金融資産構成は「投資偏重」だったところに証券業界はまず目を付けたのです。 

 

◼️「外国人は日本人より金融リテラシーが高い」は本当か?

 1990年のバブル崩壊によって国内投資家の多くが傷付きました。さらに、大手証券会社が繰り返した無用な「底入れ宣言」を信じて「押し目買い」を繰り返した投資家の傷口がさらに広がったこともあり、国内証券会社の信頼は大きく失墜してしまいました。投資家の多くが、外資系証券会社の裁定解消取引の前に国内の大手証券会社の力は全く通じないということを目の当たりにしたことも、国内証券会社の信頼失墜の原因になりました。

 バブル崩壊によって日本では、外国人は日本人よりずっと金融リテラシーが高い存在だという考えが自然と植え付けられていったのです。それ故に米国の「投資偏重型」の個人金融資産構成が、日本の将来あるべき姿であるという主張は一定の納得感をもって受け入れられたのです。少なくとも、当時の証券業界はそのように考えました。

  こうして声高に叫ばれ始めたのが「貯蓄から投資へ」というスローガンです。

 日本社会の金融リテラシーが向上していけば、個人金融資産の構成は金融リテラシーが高い米国に近付いていくことになる、という説得力のある論理に基づいた「貯蓄から投資へ」というスローガンは、証券及び資産運用業界の期待を一身に受け投資レポートや投資セミナーでも繰り返し紹介されることになりました。

 バブル崩壊によって危機に陥った当時の証券業界では「1000兆円の個人金融資産の1%でも株式投資に回ってくれれば」という言葉がよく交わされていました。僅か1%だけといっても 10兆円という大規模な資金が株式市場に流れ込むことになるわけですから、バブル崩壊で苦しむ業界が大きな期待を掛けるのも当然のことでした。

 しかし、証券業界の人間の心には響いた「貯蓄から投資へ」というスローガンも、業界期待ほどの効果は発揮しませんでした。 「プロパガンダの天才」と呼ばれたナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスは「嘘も100 回言えば真実になる」と言ったと伝えられています。「プロパガンダの天才」よろしく証券業界は「貯蓄から投資へ」というスローガンを何万回も繰り返しましたが、残念ながら真実として受け入れられることはありませんでした。それは、バブル崩壊の影響が株式に投資していた人たちだけでなく全ての人たち、社会全体に及んでいたことの証明でもありました。 

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