元祖鉄道アイドル、今は「鉄旅タレント」として鉄道をアツく語る木村裕子が日本各地の魅力的な路線を紹介する“女子鉄ひとりたび”。今回は【日本三大車窓】のひとつ篠ノ井線・姨捨駅をレポート。(『女子鉄ひとりたび』著 木村裕子 より)

■長野盆地の絶景・鉄道電話・スイッチバックが堪能できる!

 篠ノ井線には、鉄道旅行のエッセンスが凝縮されたかのような魅力が感じられる。長野駅を出発した列車は篠ノ井線に入り、ほどなくして長野盆地の善光寺平が一望できる姨捨(おばすて)駅に到着する。この駅周辺の車窓風景は、石北(せきほく)本線の旧狩勝峠(きゅうかりかちとうげ)、肥薩(ひさつ)線の矢岳(やたけ)越えとともに「日本三大車窓」と称されている。ホームの展望デッキからは千曲川に沿った長野盆地の大パノラマが広がっていて、その眺望は何度来ても飽きることはない。

 姨捨駅では15分停車。「リゾートビューふるさと」の乗客向けサービスとして、元保線員の地元ボランティアによる、駅構内の見どころガイドツアーが実施された。この駅には昭和初期竣工の趣ある木造駅舎が建っており、戦前から佇むどっしりとした風格にオーラを感じる。全国には古い木造駅舎が各地に残るが、その大半は民家のような和風建築。この姨捨駅舎のようなレトロモダンな建物は稀少性が高く、見れば見るほど味わい深い。この駅には蒸気機関車時代の遺構、スイッチバックも残る

 駅の待合室には黒電話の鉄道電話があった。通常、鉄道関係者以外が触れることはできないけど、ここでは「困ったらお使いください」と書いてある。つまり乗客が使ってもよいということだ。電話したい衝動にかられたが、そのとき私はこれといって困っていなかった。この電話は旧国鉄が敷設した鉄道施設間を結ぶ直通回線で、その後JRにも引き継がれた。7ケタの番号で、鉄道関係者の間では「鉄電」と呼ばれている。JR関係者の名刺には、NTT回線番号と一緒に鉄電の番号も記載されていて、私にもほのかな憧れがあった。問題がないことは良いことなのに、利用できるチャンスが生かせず残念だ。

 姨捨駅には、駅スタンプも設置されていた。この駅は通常は無人駅なので、前述のボランティアガイドがいる時間帯しか、スタンプが設置されていない。「押し鉄」とも呼ばれるスタンプ収集ファンが懸命に押していた。私自身は、記念スタンプは一駅一押しで十分だと思っていて、仮に擦れたり曲がったりしても、それも味だと思っている。でもあるとき、押し鉄のノートを見て驚いた。どれも美しい印影を留めていて、生き生きとしている。情熱とはこういうことだと感じた。

 姨捨駅を過ぎると、近くの席で西村京太郎さんの『篠ノ井線・姨捨駅 スイッチバックで殺せ』という小説を丹念に読む男性を見かけた。私も見事なトリックが織りなす西村作品を拝読することが多いが、そのプロットの妙にいつも感服してしまう。小説の舞台で読むというのは、聖地巡礼気分に浸れるのかな。それにしても、〝スイッチバックで殺せ〞の内容が気になってムズムズする。