全国大会金賞を目指し、日々厳しい練習に励む吹奏楽部員たちが綴ったノートにはどんな想いがこめられているのか。 歩んだ3年間のなかで、詰まったドラマや物語を彼ら彼女たちが書き溜めたノートから読み取る書籍『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』。強豪校を中心に4月から10月に開催される全国大会までを取材。 友情・努力・涙・葛藤・プライド…。その書から少しだけここで…。(『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』より

福井県の武生商業高校が6年連続、石川県の小松明峰高校が2年連続で代表を占めていた北陸支部に、2019年は異変が起こった。彗星のごとく現れた初出場校。だが、その裏側には大きなピンチと苦渋の決断があった――。

■全国を目指す吹部に走った亀裂

(写真左)「マユ」こと西出真唯。(写真右)「コムギ」こと藤村小麦。

 小松市立高校吹奏楽部の練習は「始礼」からスタートする。前に立つ部長がリードし、モットーを唱和する。

「愛」
「他人を愛すること!」
「美」
「美しいものを美しいと思える豊かな心をもつこと!」
「夢」
「夢をもって追いかけること!」
「文化祭まであと」
「3日!」
「全国大会まで」
「あと55日!」

 2019年、小松市立高校は全日本吹奏楽コンクールに出場することが決まっていた。他の支部に先駆けて北陸大会が行われたのは8月11日。出演順が3番と早かった小松市立は、高校の部の代表に全国で一番乗りした学校だった。

 それだけではない。小松市立が代表に選ばれるのは初めてのこと。2015年の活水中学校・高校以来、4年ぶりに全日本吹奏楽コンクールに登場する初出場校となったのだ。

 そのニュースは瞬く間にSNSを駆け巡り、全国の吹奏楽関係者やファンにとって大きなサプライズとなった。

 学校創立60周年の年に達成した快挙。正門の横には「祝 全日本吹奏楽コンクール初出場」の看板が誇らしげに飾られていた。

 しかし、吹奏楽部が歩んできたのは、そんな華々しいイメージとは違う茨の道だった。

 モットーの唱和をリードした3年生の部長、「コムギ」ことフルート担当の藤村小麦は、正確には「後期部長」。コムギの前にもう一人の部長が存在したのだ。

 

 現在、小松市立高校吹奏楽部を率いているのは安嶋(やすしま)俊晴先生。前任の金沢桜丘高校を2012、2013 年と2年連続で全国大会に導き、2012 年には金賞も受賞している。北陸を代表する名指導者の一人だ。2014年から小松市立に異動になったが、安嶋先生にしてみると「今年の全国大会出場は不思議ではない。むしろ、ここに来て5年もかかってしまったか」という思いだった。

 しかし、誰も全国大会を経験したことがない学校を「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる特別な場所へ連れていくのは、やはり並大抵のことではない。

 その象徴が「二人の部長」だ。

「前期部長」というよりも、当初は一般的な「部長」として部員たちの前に立っていたのは3年生でユーフォニアム担当の「マユ」こと西出真唯だった。

 小松市立では、部長は3年生の引退に際して部員たちが投票を行い、票の多い者と先生が面談をして最終決定する形になっている。