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私たちの負けられない想い ~吹奏楽部員たちが書きとめたノート~

吹奏楽の甲子園を目指して―ノートに綴った青春ドラマに泣けます!

全国大会金賞を目指し、日々厳しい練習に励む吹奏楽部員たちが綴ったノートにはどんな想いがこめられているのか。 歩んだ3年間のなかで、詰まったドラマや物語を彼ら彼女たちが書き溜めたノートから読み取る書籍『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』。強豪校を中心に4月から10月に開催される全国大会までを取材。 友情・努力・涙・葛藤・プライド…。その書から少しだけここで…。(『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』より

■最後のコンクールが始まる!


 校舎の階段を上がるとき、少し息が切れてしまう。

 吹奏楽部の部室があるのは6階、合奏練習が行われる音楽ホールは7階。そこまで自分の脚で上がっていかなければならない。けれど、そこへ通うようになって3年目。もう慣れてしまった。

 校舎の裏手にある木立ではセミが騒がしく鳴いている。窓の外には、熱気に沈む岡山市街が見渡せる。少し、汗がにじんだ。

 階段の途中で、掃除をしている部員たちに出会う。掃き掃除をしている者、拭き掃除をしている者。「おはようございます」と声をかけられ、「ありがとう」と返す。自分たちが入部するよりずっと前から、そうするのが習わしになっているのだ。

 掃除が終わると、7階の音楽ホールに91人の部員が集まり、ミーティングが始まる。最初は全体でのミーティングだ。

 前に立つのは、明誠学院高校吹奏楽部を率いる稲生健(いのうたけし)先生。表現力豊かで個性的な指揮と、ユーモアのある言動で注目されている名物先生である。

 先生はいくつか事務的な話をした後、「ジャンケンじゃ。全員、起立!」とみんなを立たせた。全部員によるジャンケン大会が始まった。「最初はグー! ジャンケン、チョキ!」

 先生に勝った部員は腰を下ろす。そして、最終的に負け残った男子部員が前へ呼ばれた。

「ええか? 大きな声で『三訓五戒』を読むんやぞ。お前の気合いで今日1日が決まるんじゃ。みんなも、足を肩幅に開いて、踏ん張る。腹の底から声を出すんじゃ!」

 先生にうながされ、男子部員が壁に貼られた部訓『三訓五戒』を読み上げ、全員が復唱した。

「三訓! ひとつ、己を捨てよ!」
「ひとつ、己を捨てよ!」
「ひとつ、反省を忘れるな!」
「ひとつ、反省を忘れるな!」

 明るい声が音楽ホールに響く。前日はホール練習だったが、部員たちは今日も元気だ。

『三訓五戒』が終わると、前日録音した自由曲をみんなで聴くことになった。

 2019年の自由曲として稲生先生が選んだのは、クロード・ドビュッシーが作曲した《3つの交響的素描「海」より》。通称《海》と呼ばれるこの曲はもともとはオーケストラのための曲で、葛飾北斎の浮世絵に影響を受けて作曲されたと言われている。

 部員たちは先生とともに自分たちの演奏を聴き、それぞれが気づいたことを楽譜やノートに書いていく。音楽が止まると、稲生先生がこう言った。

「音楽っちゅうもんは人と人を結びつけるんじゃけど、技術力や基礎力がないとなかなか結びつかんな」

 きっと先生は、今の自分たちに欠けていることを言っているのだ。

 明誠学院では、全日本吹奏楽コンクールに向けて進んでいくA編成の55人のコンクールメンバーを「ばら」、もう一つのバンドを「もも」と呼んでいる。すでにオーディションは終わってばらの55人で練習をしてはいたが、先生が言うとおり、みんなが一つになれているとは言えない状況だった。

 ミーティングは、パートごと、パートの学年ごとでも行われ、さらに「ばら」だけのミーティングも行われた。

 壁にある日めくりカレンダーは「コンクール県大会まで13日」となっている。岡山県代表として中国大会に出場できるのは4校のみ。さすがにみんなも危機感を覚え始めているのか、ミーティングには真剣な表情が並んだ。

 そんな中、部長でチューバ担当の「カゲ」こと影山裕太がこう語った。

「普通の、上手な演奏じゃつまらんよな。もっと熱量のある演奏がしたい」

 静かに語りかける言葉に、みんなが聴き入った。

「3年にとっては最後じゃけんな。出し切る。頑張ろうや。『できる』『できん』じゃのーて、できることを、出す。みんなならできるよ」

 その言葉を聞いて、「カゲもときどき良いことを言うな」と思う。

 部長なのに、過去の先輩たちと違って話は上手じゃないし、ふざけていることも多い。一度、「あんたのやる気が見えんから、みんなやる気が出んのよ!」と叱ったこともあった。しかし、もうあのころのカゲではないのかもしれない。

 そのとき、ふと目の前に、昨年初めて立った3500人を収容する巨大な名古屋国際会議場センチュリーホール―「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールのステージから見た光景が甦ってきた。

「もう一度、あそこへ行こう!」

 3年生で金管リーダーを務める「ウノ」こと寺坂羽乃は、大きな瞳に力を込めた。

■「吹奏楽の甲子園」基礎知識

【全日本吹奏楽コンクールとは?】
年に1回行われる吹奏楽界最大のイベント。中学校、高等学校、大学、職場・一般という4部門で開催されるが、もっとも注目を集めるのが高等学校の部だ。地区大会↓都道府県大会↓支部大会を勝ち抜いた代表30校のみが出場を許される。支部は北海道・東北・東関東・西関東・東京・東海・北陸・関西・中国・四国・九州で、支部ごとに代表数が異なる(参加校数の比率による)。

【会場】
2019年現在、名古屋国際会議場センチュリーホール。中庭にはレオナルド・ダ・ヴィンチ作の巨大な「幻のスフォルツァ騎馬像」があり、全国の高校生の憧れの地となっている。かつて「吹奏楽の聖地」と呼ばれ、全国大会の会場だった普門館は取り壊し中。

【審査方式】
高等学校の部は前後半に分かれ、15校ずつが出場。審査や表彰式も前後半それぞれ行われる。9人の審査員が15校をおおよそ3分の1ずつA・B・Cで相対評価。Aが過半数なら金賞、Cが過半数なら銅賞、それ以外には銀賞が授与される。

【演奏】
年ごとに変わる5つの課題曲の中から1曲と自由曲を1曲、合計2曲を12分以内に演奏する。タイムオーバーは失格となる。

【開催時期】
全国大会は10月下旬(まれに11月初旬になることも)に開催さる。地区大会から数えるとおおよそ3カ月にわたる長期の大会だ。なお、地域によっては地
区大会がなかったり、前年の成績によって地区大会がシードになったりすることもある。

【人数制限】
全国大会とそれにつながる大会はA部門と呼ばれ、55人までが出場できる。
なお、高校生に加えて同一経営の学園内の小学生・中学生も参加できる

KEYWORDS:

『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』
オザワ部長 (著)

「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールをめざす、ひたむきな高校生の青春を追いかけたノンフィクション・ドキュメント第4弾。 今回、実力があるのにコンクールでは涙を飲んできた、そういう高校(吹奏楽部)を前面に押していきます。常連校のようなある意味“でき上がった"子たちではなく、実力はあるのにまだ出し切れていない、その分、どうしてもコンクールに出場したいという闘志がむきだしの熱い想い、狂おしいほどの悩み、そして大きな壁を乗り越えてゆく姿を魅せていきます。 【掲載校】 〇磐城高校(東北) 〇明誠学院高校(中国) 〇伊奈学園総合高校(関東) 〇活水高校(九州) 〇小松市立高校(北陸) 〇八王子高校(関東) 〇東海大仰星高校(関西)

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オザワ部長

おざわぶちょう

吹奏楽作家

1969年生まれ。神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。総合吹奏楽情報サイト「ある吹net」(http://arusui.net/)やツイッター・フェイスブックでの情報発信のほか、ネットラジオ「OTTAVA Bravo Brass ブラバンピープル集まれ!オザワ部長のLet's吹奏楽部」出演、CD選曲やライナーノーツ執筆、雑誌・ネットメディアへの寄稿など多方面で活動中。担当楽器はサックス。好きな吹奏楽曲は『吹奏楽のためのインヴェンション第1番』(内藤淳一)、『宇宙の音楽』(スパーク)。著書に『吹部ノート』、『吹部ノート②』(KKベストセラーズ)、『サヨナラノオト』、『きばれ! 長崎ブラバンガールズ』(学研プラス)、『あるある吹奏楽部の逆襲!』(新紀元社)など。


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新・吹部ノート 私たちの負けられない想い
  • オザワ部長
  • 2019.12.27