なぜ、今、女子高生がダンスに夢中になるのか!? いやなぜ日本中(推定600万人)がダンスに夢中になるのか! 子供から高齢者、はたまた秋篠宮佳子さままでが舞台でダンスを披露する。ダンス部専門フリーマガジン&ウェブ『ダンスク!』の編集長で『ダンス部ノート』著者の石原久佳氏が「ダンス部ダンス」の盛り上がりとダンス文化の興隆の現在を読み解いた。

 ダンス部が依然、話題だ。
 登美丘高校のバブリーダンスのブーム以降、各メディアがダンス部に注目し、情報番組での大会速報から、歌番組でのアーティストの共演、その青春を追いかけたドキュメンタリー番組など、各テレビ局がダンス部に注目している。大会は年々増え、地域イベントなどでも引っ張りだこ、文化祭のステージでは花形的な存在だ。
 日本では10年ほど前からダンスブームが続いており、世界的にみてもその人口やレベルは群を抜いている。そして、昨今のダンス部の興隆はそのブームに拍車をかけながら、ダンス部の存在は教育現場でのダンスの新たな意義と可能性を見出し始めている。
 なぜいま、ダンス部がこれほどまで盛り上がるのか?
 そこにある「5つの理由」を探ってみよう。

 

◆理由1◆ 文化系と体育系のミクスチャーで女子が初の主役に

 高校ダンス部は、高等学校体育連盟(高体連)にも高等学校文化連盟(高文連)にも属していない。戦後からダンス(舞踏)はそのどちらにも属しておらず(取り扱われず)、創作ダンスを主体としていた当時は女子体育連盟が「女子のもの」として細々と扱ってきた。実際のダンス部の活動を見ると、ステップを踏んだり、技術を学んだり、そのための体力強化をする面ではスポーツ的。想像よりもずっと規律正しく自主性を重んじる活動ぶりも体育会系のそれだ。そしてもう一方では、振り付けや衣装を創作し、独自の「表現」へと向かう感性はまさに文化系
 たとえば吹奏楽部や演劇部と同じような創作性を要求される(ちなみに、都立高校のダンス部は2015年にすでに吹奏楽部の総部員数を抜き、女子ナンバーワンの部活になっている)。だから、ダンス部は体育系と文化系の要素が融合する初めての部活と言えるのだ。それだけではない。野球やサッカーなど男子が活動の中心だったメジャー部活動の分野でも、ダンス部は初めて女子が主役となる部活でもある。最大規模のダンス部大会「ダンススタジアム(日本高校ダンス部選手権)“女子高生の甲子園”と言える盛り上がりで、他の大会も企業主体で開催される。このように企業が大会を運営している点も、メディアへの強さやイベントのショーアップなどにつながっている要因だ。

 

「群舞」のユニゾンでは、全員の動きや意思が揃った時の一体感や高揚感は何にも代えがたいものがあるという。写真は、品川女子学園ダンス部(『ダンスク!』)

◆理由2◆ キッズダンス黄金世代がイケてる高校生に成長

 公立中学校でダンスが「必修化」されたのが2012年。この年をまたいで、習い事としてのダンスがピークを迎えた。2000年代前半生まれの世代(特に女子)は、生まれた頃から当たり前のようにダンスミュージックに囲まれ、放課後に遊べる安全な公園や空き地を持てなかった。だからこそ、男女差も年齢差もそれほど影響せず、大人の目の届く安全な場所で行える、明確な順位のつかないダンスの「自由さ」に夢中になった。時には、ダンスバトルで大人を負かしてしまうレベルと人口を誇る、この「キッズダンス黄金世代」は、2017年頃から高校生へと成長した。そう、それは登美丘高校がバブリーダンスで社会現象を作った年。それまでの「元キッズダンサーは、レベルの低いダンスには入らない」という傾向は徐々に変化し、エリートダンサーたちは、ダンス部のリーダーとして振付師として指導者として、そのレベルアップに大きく関与していったのだ。

 

◆理由3◆女子たちの「みんな一緒」意識を満たす群舞のマジック

 一般的に高校時代は「家族」から「友達」へアイデンティティが移る時期だという。女子は特に仲間への依存度が高い。その時に大事なのが「みんな一緒」という集団意識だ。ダンス部の特徴である大人数で振り付けを合わせる「群舞」のユニゾンでは、全員の動きや意思が揃った時の一体感や高揚感は何にも代えがたいものがあるという。逆に、外から見て合っているように見えても「中の人」は全く満足していないという状況もあり、完璧な一体感を作るにはマジックのようなカラクリが必要なのだろう。また、以前のストリートダンサーの一部にはある種排他的なにおいがあり、それは「踊っているヤツにしかわからねえ」という極端な仲間意識の表われでもあった。
 しかし今では世間のダンスへの理解度が違う。ダンスで仲間とつながる、他者とつながる、観客とつながる、社会とつながる。古来からのコミュニケーションツールであるダンスに現代の若者が夢中になる理由は、生まれた頃から囲まれていたネットやSNSコミュニケーションの反動にあるのかもしれない。

 

◆理由4◆ダンス部にこそあった! 実践的アクティブラーニング

「踊る阿呆に見る阿呆〜」ではないが、日本が世界に先駆けるダンス大国である理由はそのレベルや人口だけではない。ダンスの効果や意義が有用視される分野の「広さ」にある。キッズダンスに端を発する「知育」分野ではダンスの効果が認められ、将来的にはリトミックのように世界へ輸出されるプログラムに発展するかもしれない。これから高齢化を迎えるディスコブーム世代は、すでにダンスへの抵抗感が少なく、従来の社交ダンスやフラダンスに加え、これからはストリート系ダンスを踊るシルバー層が現れるかもしれない。
「福祉」分野では、TRFのSAM氏がリハビリとしてのダンスプログラム導入へ活発な動きを見せている。「芸術」「エンタメ」分野でのダンスは言わずもがな。昨今ではダンス映像のインパクトでヒット曲が生まれている。
 そして「教育」分野。最近のキーワードは「アクティブラーニング」であるが、そのほとんどが絵に描いた餅、机上の空論で終わっているという現場の声も聞く。しかし、ダンス部にはアクティブラーニングの実践形がある。勝つために、喝采を浴びるために、必要な条件や過程を考え、計画し、実践し、修正し、本番へ挑む。お手本や前例の少ないダンス部では「正解のない答え」を求めて、生徒たちが自主的に責任を持って動く。その「熱」をそのまま教室に持っていきたいとダンス部顧問の先生は語っている。

 

◆理由5◆ 登美丘だけじゃない! 高校ダンス部のスーパー多様性

 ダンス部がこれほど注目されたきっかけは先の「登美丘バブリー」であるが、登美丘高校はある意味で高度に完成された異端児なので、あとに続くフォロワーも現れにくかった。逆に、多くのダンス部の憧れとして日本一を何度も成し遂げている強豪校が同志社香里高校。中高一貫でコーチ無しの完全自主を標榜する大所帯ダンス部は、その凜とした集中力と音の表現力が抜群だ。
 また、阿修羅のような迫力と立体展開のダンスで押し込む久米田高校、女性らしさと高速ダンスで毎年上位入賞をする堺西高校、創作ダンスをベースに圧倒的な表現力を見せる帝塚山学院など、関西には実力派が数多い。
 関東では、女子力をアピールする品川女子学院、作品力に安定感のある狛江高校、完全自主活動にプライドを持つ千葉敬愛高校、ストリートダンスの美学を貫く二松学舎大学高校や群馬の安中総合高校
 そして、中部には青春の勢い爆発させる三重高校、九州には学校として黎明期から活躍する北九州市立、ダンスコースを持つ鎮西高校などなど。
 ストリート系、アート系、創作系、エンタメ系などが入り混ざる多様性で、昨今では大会での審査が非常に難しい状況だ。しかし、それらのスタイルこそが各校の伝統に繋がり、全体の勢力図を作り、地域応援以外の「ダンス部ファン」を生む。ダンス部大会は将来、高校野球のような一大コンテンツ、日本の夏の風物詩に育っていくかもしれない。