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「馬鹿ブス貧乏」本でショックを受けないための注意事項

半世紀以上もたくましく生きたカッコいい女性の生き様

◆藤森かよこ著『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』とは

佐々木ののか

 ひどいタイトルの本だと思った。

「馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに」なんて書かれて手に取る人なんているのだろうか。ページを開いても馬鹿ブス貧乏のオンパレード。いただいた原稿のPDFで検索をかけると「馬鹿」は197回、「ブス」は154回、「貧乏」は129回登場する。語り口も辛辣なもので、

 

〈ブスで馬鹿で貧乏なあなたは、堅実にダサく生きるしか手がない。あなたは馬鹿だから、ついつい虚栄心や見栄に振り回されてしまう。自己肥大的な幻想を自分に抱いてしまう〉

 などと書かれている。

 おまけに「本格的ブスは美容整形手術を受けろ」とか「とりあえず男を見たら性犯罪者だと思うこと」とか、ラディカルな表現のジャブ、ジャブ、アッパー、ストレート。前後の文脈を読めばそれらの多くが“演出”であり、また、愛によって下支えされた言葉だということはわかるのだけど、言葉単体の強度にK.Oされてしまう人がほとんどだろうと思う。大して中身をよく読まずに掻い摘んで読んだら、かなりアグレッシブで“ひどい”本だ。

 正直なところ、私も読み始めて数ページで心が折れかけた。本を閉じて書評のご依頼を辞退しようかと思った矢先、まえがきの終わりに〈読んでいる最中にむかついても、最後まで読んでください〉と書いてある。すべてを見透かされているような、というか、怒るように差し向けられているような書き方だ。「私はあなたのことをよく理解しているつもりです。あなたは私を信用してくれるでしょうか」と、著者である藤森先生にじっと心の奥を覗き込まれているような感覚を覚えた。著者の真剣度と寄り添いを確かめることができたからこそ「この人の話なら聞いてみてもいいかな」と、私はその先を読み進めることができたのである。

 先に言ってしまうと、この本は「馬鹿ブス貧乏な人間」というよりは、「馬鹿ブス貧乏と罵られ、あらゆるものに絶望し尽くした状態で、怒りを燃料にして生きたほうがやる気が出る人間」向きの本である。実際に、藤森先生は読み手のことをバカになどしていない。その証拠に、親しみやすい文体ながら平易な言葉では書かれていないし、本気でバカだと思っていたらリストにして10ページにもなる骨太な参考文献を作中で紹介しないだろう。「馬鹿なあなたでもできる」などと挑発的に書かれてはいるが、その根底には読み手への愛と信頼がある、と、私は感じた。

 ただし、そうした愛や信頼を差し引いても、作中では目を背けたくなるような話が続く。

 上記が必ずしも事実だと思わない。しかし、「そんなことは絶対にない」だとか「そんなことを言うなんてひどい」というのもまたラディカルだと思う。たとえば「美しくない女性なんかいない」という言葉がある。現にプラスサイズモデルなど、従来の画一的な美の基準の外側にいる人でも「美しい」と脚光を浴びる人たちが増えてきたし、そうした人たちや言葉に救われる人たちもたくさんいることだろう。

 しかし、事実としてルッキズムのまなざしに傷つけられている人がまだまだ存在している中で、そうした背景を耳障りの良い言葉で塗りつぶし、完全になかったことにしてしまうことで傷つく人もいるのではないだろうか。その点、本書では厳しい“現実”を容赦なく照らしている。ストイックな指南書のため、「あなたはつらい状況に置かれていますね」と寄り添ってくれるだけでなく「他の人よりも不利な状況にあるのだから努力しろ」とお尻を叩かれる大きなおまけ付きだが、誰も言及したがらない世の中の汚く理不尽な面に触れてくれる人がいることに、救われるような気持ちを抱く人も少なからずいるはずだ。

 繰り返しになるが、本書はそうした厳しい“現実”への耐性があり、むしろ“燃える”という稀有な人には向いているが、そうでない人には指南書としてはおすすめできない。

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KEYWORDS:

馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。
著者/藤森かよこ

死ぬ瞬間に、あなたが自分の人生を
肯定できるかどうかが問題だ!

学校では絶対に教えてくれなかった!
元祖リバータリアンである
アイン・ランド研究の第一人者が放つ
本音の「女のサバイバル術」

ジェーン・スーさんが警告コメント!!

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これは警告文です。本作はハイコンテクストで、読み手には相当のリテラシーが求められます。自信のない方は、ここで回れ右を。「馬鹿」は197回、「ブス」は154回、「貧乏」は129回出てきます。打たれ弱い人も回れ右。書かれているのは絶対の真実ではなく、著者の信条です。区別がつかない人も回れ右。世界がどう見えたら頑張れるかを、藤森さんがとことん考えた末の、愛にあふれたサバイバル術。自己憐憫に唾棄したい人向け。  
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あなたは「彼ら」に関係なく幸福でいることだ。権力も地位もカネも何もないのに、幸福でいるってことだ。平気で堂々と、幸福でいるってことだ。世界を、人々を、社会を、「彼ら」を無駄に無意味に恐れず、憎まず、そんなのどーでもいいと思うような晴れ晴れとした人生を生きることだ。「彼ら」が繰り出す現象を眺めつつ、その現象の奥にある真実について考えつつ、その現象に浸食されない自分を創り生き切ることだ。
中年になったあなたは、それぐらいの責任感を社会に持とう。もう、大人なんだから。 社会があれしてくれない、これしてくれない、他人が自分の都合よく動かないとギャア ギャア騒ぐのは、いくら馬鹿なあなたでも三七歳までだ。(本文中より抜粋)

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  • 2019.11.27