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「給特法」改正案が改悪案である理由

【第4回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■うまくいかなくても、悪いのは自治体と教員

 こうした「超勤手当を何とか出すまい」という変形労働時間制に、槙枝を書記長とする日教組は反対し、撤回を求めた。
 今回の給特法改正案の年単位の変形労働時間制も、「超勤手当(残業代)を出したくないがための策」でしかない。自民党教育再生実行本部長の馳が公の場で示唆した「教職調整額4%の見直し」が姿を消し、代わって浮上してきたのが変形労働時間制だったことを考えても、「カネは出したくない」がための策であることは明らかといえる。

 しかも、このまま参議院も通過し、年単位の変形労働時間制が成立したとしても、すぐに教員が学期中に残業した分の休みを、夏休みなどにまとめて取れるようになるわけではない。変形労働時間制の具体的な仕組みづくりは各自治体に任されているからだ。
 「任されている」といえば聞こえはいいかもしれないが、制度にともなう費用や責任を、政府・自民党は自治体に丸投げしたことにしかならない。苦労するのは各自治体である。

 槙枝の『回顧録』に記された1967年からの「変形8時間制」は、文部省も徹底することはできなかった。文部省自らが行った超過勤務実態調査によって、教員の過剰な超過勤務の現実が明らかになったからだ。夏休みなどに振り替えることは難しいほどの、超過勤務時間だったのだ。
 そこで文部省は、超過勤務手当制度を実施するするために予算化の準備に入るのだが、自民党文教部会が猛反発する。そして、持ち出してくるのが連載3回目で触れた「教職=聖職論」である。教員は聖職なのだからカネのことで文句をいわず、黙って働け、というわけだ。

 教員の残業時間(超過勤務時間)は、槙枝をはじめとする日教組が変形8時間制に反対したときより、はるかに増えている。先述した教員の発言にもあるように夏休みでさえ教員は忙しくなっている現在、とても「振り替え」などできるものではない。
 今度の変形労働時間制は、国会で成立しても「絵に描いた餅」になってしまう可能性が高い。それだけなら良いが、教員の働き方をさらに悪化させる可能性さえある。

 どれだけ残業しても変形労働時間制でまとめて休みを取ればいいじゃないか、ということになりかねないからだ。教員の過剰な残業時間から世間の目が遠ざけられることにもなりかねない。
 それで夏休みにまとめて休みをとらなければ、「工夫が足りない」と教員自身の責任にされてしまうだろう。政府・自民党はカネを出さなくて済む上に、教員の過重労働に対する責任も薄めることができる。

 なんとも政府・自民党にとって都合のいい制度である。
 だから、1967年に導入しようとして失敗した「亡霊」のような変形労働時間制を持ち出してきたと言える。そこをきちんと理解して、年単位の変形労働時間制と向き合う必要があるのだろう。
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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