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「教師=聖職論」は誰のため?

【第3回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「人確法」の狙い

 人確法は正式には「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」といい、1973年に自民党文部部会によって提言され、1974年2月に施行となっている。
 人が民間企業に流れて教員の希望者が減っている時期であり、そのため一般公務員より教員の給与を優遇することで、人材を確保するための法律が人確法だ。3次にわたる計画的な改善によって合計25パーセント引上げの予算措置がとられた。

 その第1条に「すぐれた人材を確保し、もつて学校教育の水準の維持向上に資することを目的とする」と謳っているが、実は、本当の狙いはそこではなかった。人確法というと、いつも思い浮かべてしまうのが『日本の官僚 1980』(著・田原総一朗)の次の一文だ。

「党内タカ派の議員たちは、人材確保法案に対して『泥棒に追銭』だと反対した。それに対して、西岡らは、『ゲップが出るほど金をやり、一挙に日教組を骨抜きにする』のだと説得した」

 西岡とは、当時の自民党文教部会長だった西岡武夫のことだ。彼は、給特法成立の立役者でもある。
 自民党にとって日教組は仇敵である。その日教組は超勤訴訟をはじめ処遇闘争で強い団結力を誇り、それが力の源泉にもなっていた。教員の給与を優遇すれば、日教組に名を連ねる理由を失う、と西岡は考えたわけだ。離脱する教員が増えれば、それこそ日教組はバラバラになってしまう。

 人確法の狙いは、まさにそこにあった。給特法も同じである。4%の教職調整額を払うことで、教員の処遇への不満を取り除けば、日教組を頼る教員が減る。
 しかも、残業代を支払う必要もなくなるし、無制限の勤務時間も正当化される。教職を「聖職」にしてしまうことで、「日教組を骨抜き」にできるのだ。

 実際、日教組は急激に力を失っていく。1958年には86%強もあった日教組の組織率は、2018年10月1日現在では22.6%にも落ち込んでいる。
 そして、給特法や人確法で確保されたはずの処遇面での優遇性も失われていく。4%の上乗せではとても釣り合わない残業を強いられ、一般公務員より25%多くなったはずの給与も、ほとんど差がなくなっている。

 それに対する教員の不満が募っているにもかかわらず、政府・自民党は教員が納得するような改善策を示そうとはしない。今国会で給特法の見直しが議論されているが、給特法や人確法が制定された当時のような「教員優遇」の動きにつながるものなのかどうか、議論を判断する大きなポイントでもある。

 しかし、残念ながらそういう議論になっていくとは考えにくいだろう。
 それどころか、教職は「聖職」だと強調することで、残業代を求めたり、勤務時間の短縮を求める教員の動きを封じようとしているとしか思えない。給特法の見直しといいながら、制定当時の「優遇」の復活もなさそうだ

 国会での見直し議論と見せかけて、「定額働かせ放題」を正当化させる「聖職論」ばかりが浮上してくることが懸念される。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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