■死後も生きている時と同様 権勢を振るい続ける皇帝

 インカ帝国は拡張するにつれて、西海岸の沿岸砂漠地帯の領土を取り込んだ際に、同時に現地のミイラ信仰も取り込んでいった。つまり死者は死後も生きている時と同様に存在し、生者と共に暮らすという文化である。

 それにより歴代の皇帝はこの信仰を領土拡張にも利用した。略奪した土地の人々の人心を掌握し、権威の保持にも都合が良かったのだ。

 例えばアマゾンに接したチャチャポヤス地方を征服する際には、その地域で昔から信仰されていた崖の中腹に先祖の骨を埋葬する習慣に対し、それらの骨を排除し、代わりにインカの身分の高い者のミイラを配置したのだ。勇猛だったチャチャポヤス族にとって、崖の中腹に埋葬された先祖の骨は心の拠り所だった。インカはその骨の代わりにミイラを配置することで、チャチャポヤス族の心まで支配した。このようにしてインカ帝国は、アンデス地域全土に瞬く間に領土を広げ、中央集権体制へとすり替えさせたのだ。

 また歴代皇帝たちは死後も、このミイラ文化の信仰によって権勢を振るった。歴代皇帝たちにはそれぞれその時代の側近たちがおり、彼らは自分たちの既得権や財産を保持しようとした。

【カラヒアの柩】
チャチャポヤスの人々の人型の柩をつかう独特な埋葬で最大で2.5mの高さの柩が7体ある。近づくのが困難な断崖に作られたため、猛禽類や部外者の手から守られた

■死後も宮殿で君臨し続けたミイラ皇帝たちの生活

 ミイラは死後も生き続けていたため、時代が経つほど皇帝の数が増えることになる。ミイラ皇帝たちがどのように君臨したかというと、クスコにある太陽神殿と呼ばれる建物や、それぞれの住んでいた宮殿に死後も住み続け、君臨していたというのだ。