北海道の開拓が本格化した明治期以降、その発展に大きく貢献したのが酒造業だ。とりわけワイン、ビール、ウイスキーは今も北海道の重要な産業となっている。これら酒の歴史に触れる旅に出よう。杯を傾けながら北海道を語ろう。(取材協力◎北海道観光振興機構)

■余市の気候風土が醸し出すウイスキーの深い味わい

余市モルトが眠る貯蔵庫。原酒は熟成を重ねるとともに個性的な香りと味わいを醸し出していく。ピュアモルトウイスキーやブレンデッドウイスキーでも、余市モルトは大きな役割を果たす。

 札幌軟石で築かれた壮麗な正門をくぐると、そこはもうスコットランドだった。蒸溜所の内と外では吹いてくる風や陽光まで違って感じられるから不思議だ。

 ニッカウヰスキー余市蒸溜所。日本における本格的なスコッチウイスキー醸造の歴史はここから始まったと言っていい。

「日本のウイスキーの父」として知られる創業者・竹鶴政孝がウイスキー造りの理想郷を求めて辿り着いた場所。そこは北海道・余市だった。

ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝。
ニッカウヰスキー博物館に展示されている1929年(昭和15)の第一号ウイスキー。
創業当初の余市蒸溜所。

 北は日本海に臨み、三方を豊かな自然あふれる山々に囲まれた地形、四季を通じて寒冷な気候は、スコッチウイスキーの故郷スコットランド、それもハイランド地方のそれと似ているとされる。

 厳しい冬の間に標高約1500mの余市岳をはじめとする山々に降り積もった雪は、春に雪解け水となって余市川に注ぎ込む。これがモルト原酒の仕込み水になる。また、石狩平野では麦芽にスモーキーな香りをつけるピート(草
炭)や、蒸溜に必要な石炭を産出した。当時から、ウイスキー造りに欠かせない原料や製造に必要な条件が整っていたのだ。

 余市モルト特有の男性的で重厚な味わいの秘訣は、ここに来るとよく理解できる。蒸溜に使われるポットスチルは、下向きラインアームを持つストレートヘッド型と呼ばれる独特な形状。アルコール以外のさまざまな成分を残しつつ蒸溜が進むため、複雑で豊かな味わいの原酒となる。また、創業時から続く石炭直火蒸溜は、800〜1000℃の高温になるポットスチルを、絶妙なタイミングで石炭をくべながら熱し、適度な「焦げ」を生ずる。こうした伝統の技が余市モルトの力強い味わいを支えているのだ。

日本のスコットランドと称されるニッカウヰスキーの聖地、余市蒸溜所。
工場敷地内に残る小さな木造平屋建ての旧事務所。前身である大日本果汁株式会社時代の金庫が往時を偲ばせる。

 貯蔵庫では静かに、そしてゆっくりと樽熟成が進んでいく。ふくよかなウイスキーの香りがする。気温が高く乾燥した環境では、蒸散する水分が多くなり熟成が早く進み過ぎてしまう。そこは時間までゆっくりと流れるように感じられる、特別な空間だった。