一流大学出身でも、毎日の会社勤めになると遅刻連発、仕事中に居眠りと使い物にならないケースがある。発達障害が関係する「低血糖症」と医者からの診断を受けて初めて「立ち直った」男性のお話。10年間のひきこもりとゲーム依存になってしまったことからの脱出の一部始終。キーワードは「直観像記憶」という才能。『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』の著者、吉濱ツトム氏の個人セッション実例ドキュメントです。

◆体調不良がひど過ぎる、朝起きられない、仕事中に機能停止
(男性32歳/ひきこもり歴10年)

 Bさんがひきこもりとなったのは、3社目の転職先、出版社に勤めてからのことでした。アトピー性皮膚炎だったため、一日中、顔や首をさすり、背中をモゾモゾさせて落ち着きがありません。心配してくれた上司は、週に2回、2時間ほど仕事を抜けて皮膚科へ行くことを許容してくれたそうです。
 しかしBさんの問題点は、そこではありませんでした。とにかく遅刻が多いこと、さらには仕事中に居眠りをしてしまうのです。Bさんは当初、「睡眠時無呼吸症候群」を起こしているために日中に突然睡魔が襲ってくるのではないかと考え、診察も受けました。しかし診断結果はそうではありませんでした。

「そんなに身体が弱いんだったら、ちょっとは鍛えたら?」

 と上司から言われ、本当は5分でも10分でも長く眠りたいBさんでしたが、いたしかたなくジムに入会。ランニングマシーン20分+腕立て伏せ・腹筋などを組み合わせてトレーニングを試みました。Bさんはヘトヘト。
 そして翌日、朝起きられずまたもや遅刻。それでも上司からのプレッシャーを感じてジムに通い続けました。そしてある日のこと、耐えられないほどの強烈な疲労感が襲いかかり、自分が今どこにいるのかを認識できなくなり、頭は真っ白、フリーズ状態となり気を失いました。
 会社側は、正社員からアルバイトへと切り替えて、週に2~3日の勤務にすることを勧めてきたため、Bさんもさすがに自分の状態を悟って受け入れました。これでBさんは完全に自信を失くしてしまったのです。

 

 実はBさんは都内にある某有名大学の法学部出身。この法学部は国内の大学の中で1、2を争うレベルでそれはBさんのプライドの拠り所でもありました。
 遡ってみると、小学校・中学校の体育の授業はほとんど見学。授業でも居眠りが多く、家でもほとんど勉強することがなかったのですが、テストだけはいつも90点以上の成績優秀者でした。
 また、Bさんには、一種の特殊能力がありました。
 それは目で見たものを脳に写真のように焼きつけることができる「直観像記憶」というものです。教科書のテスト範囲、受験に必要な参考書を難なく暗記。そのおかげで有名大学の法学部もあっさりクリアできたのでしょう。ちなみに、かのレオナルド・ダ・ヴィンチや建築家のアントニオ・ガウディ、ゲーテなどの偉人たちはこの「直観像記憶」が備わっていたのではないかと言われています。
 学生の頃は、体力を〝省エネモード〟にしておけば問題は生じませんが、社会人ともなればそうはいきません。
 アルバイトに格下げになった居づらさからBさんは退職。都内のアパートを引き払い、実家に戻りました。

「テレビ→寝る→ゲーム→寝る」のひきこもりへ

 週に一度、1~2時間、チラシをポストに投函するアルバイトに出かけるだけで、それ以外は家にひきこもって「テレビ→寝る→ゲーム→寝る」の繰り返し。チラシの量は通常の人の半分の量なので収入は月に1万円未満です。母親の作る食事には手をつけず、コンビニ弁当やカップラーメンなどを食べ、お金がなくなれば冷蔵庫をあさる。部屋には空のペットボトルや食べ残しの弁当、山積みになった雑誌が崩れ落ちているような状態、いわゆる「汚部屋」の中で暮らしていました。
 僕の元を訪れた時は、ひきこもり10年。アルバイトもまったくしなくなっていた状態でした。
 さてこんなBさんですが、発達障害と何の関係があるのでしょうか。 
 ただ単に身体が弱かったから——と考えがちですが、ではいったい「身体が弱い」という原因は何なのか。その原因を一度考えてみる必要があります。
 発達障害がある場合、慢性疲労症候群とまでは診断されないのですが、常に「ダルさ」、「眠気」、「無気力」に苛まれています。それは脳のある器官の働きが過覚醒や機能低下を起こしているためで、本人のやる気ではどうにも解決できない状態にあるのです。

◆[ひきこもりからの脱却:吉濱セッション]

 Bさんのケースのような場合、いきなり身体を鍛えるトレーニングをやろうとするのは、とんでもない間違いです。もともと疲労と疲労感が強いところへ爆弾を落とすようなもの。続くわけもありません。本人の心も折れてしまいます。
 僕はBさんとの個人セッションで、自分の経験からすぐに「低血糖症である」と推察しました。過去の数多くの来談者と同様、顔色や身体つきに低血糖症のサインが出ていましたし、実際の食生活は前述の通りです。
 病院で血液検査をしてもらったところ、やはり血糖値が極端に低い低血糖症でした。活動に必要なエネルギーが不足し、支障をきたしていたのです。
 そしてこの低血糖によって、最も影響を受ける場所が“脳”です。脳が代謝するための材料として「糖分」が大きな役割を担っています。不足すれば言うまでもなく脳機能は低下、意識障害まで起こしてしまいます。これは、僕がそうだったからです。
 僕は以下のプログラムを作り、Bさんに実践してもらいました。

低血糖症対策の食事法→主にパン・ご飯・パスタなどの炭水化物を控える。●ビタミンB群のサプリメントの摂取→サプリメントを毛嫌いする方がいます
が、使い方により有効な働きをします。極端に足りないものはまず補うこと。他の栄養との相乗効果も生まれます。
●睡眠時間を増やす→改善するまでは「眠い時は寝る」=「睡眠が必要だから眠い」とまず眠くならない状態を作ります。
●丁寧なストレッチ→足の指先から首・頭までゆっくり伸ばします。血流がよくなり脳にも酸素が行き渡ります。
●立ち方・歩き方を正す→正しい姿勢によって脊柱から脳への血流が改善しま
す。歩く際のかかとからの刺激は脳に心地よさをもたらします。
●有酸素運動→最初はほんの数分から。酸素が脳と身体に少しずつ行き渡るよ
う、軽度なトレーニングからとり入れていきます。

 徐々に体質が改善されていくとともに、伏し目がちであったBさんは、僕の目を見て話せるようになり、表情も豊かになっていきました。ちなみにアトピーの症状もほとんどなくなり、今では皮膚科の通院もしなくて済むようになったそうです。
 Bさんの得意とするものは「直観像記憶」ですから、プログラミングとウェブデザインの仕事を勧めました。まずは週に2回・2時間だけの作業からスタート。
 今、徐々に出勤回数を増やしていく努力をしています。
(『今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気』より)